1.まえがき
日本国憲法は、この「日本」という国を、長い長い歴史を経て今日に至っているものとは考えていません。この憲法ができた昭和二十年か二十一年かに個々人が社会契約をして「新しい国家」をつくったという話になっているのです。
これは「革命」理論です。
今日の日本という国家は過去の歴史を継承・発展させたものではなく、終戦まもなく、日本に「革命」が起きてつくられた「新しい国家」である――そういうストーリーになっているのです。
現行の日本国憲法が前提としている国家観は、本文で詳述するように、十七世紀イギリスの思想家ジョン・ロックが提示した社会契約モデルに基づいたものです。個々人の生命・自由・財産を安定的に保障するためにこそ人々が社会契約をして国家をつくったとする国家観です。
問題は、この日本国憲法が前提としている国家観が、現在進行形で「革命」を推進していることです。平成に入ってから様々な「改革」が行われていますが、その背景にあるのは、個人を主体にして「新しい国家」をつくるという日本国憲法の国家観です。日本国憲法が歴史的な共同体である「日本」を否定し、「日本らしさ」を失わせるための国家改造の“哲学”を提供しているのです。
日本国憲法を語るとき、一般には第九条の問題に集中しがちです。もちろんその問題も重要には違いないのですが、九条を含めてこの憲法の根底にあるのはどんな国家観であるのかを論じることのほうがよほど本質的な問題ではないかと思います。
しかし、意外にもこの“より本質的な問題”がこれまで論じられたことは、ほとんどありませんでした。
本書は、これまで誰も語ってこなかった日本国憲法の国家観がはらむ重要問題を、正面から取り上げるために書かれました。驚くような内容もあろうかと思います。 本書が今後の憲法改正論議に一石を投ずるものとなれば幸いです。