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政治武士道

政治家はいかなる理念を持ち、いかに行動すべきか

衆議院議員 平沼 赳夫
郵政民営化法案に反対票を投じての自民党離党と復党問題。そして脳梗塞・再起と続いた波乱の中、一貫した政治姿勢で存在感が高まる平沼赳夫氏。一連の真相は著書『政治武士道』に詳しいが、ここでは同書から国際交渉の場でのエピソードを主に掲載し、世界における日本のリーダーシップと外交のあり方を問う。

1.政治家とは何か 「政治家」と「政治屋」

 そもそも政治家とは何か。

 そして、政治家が命をかけても守らなければいけないものとは何か。

 本書の最初に、そういった本質的な点について、私の信条を述べておきたいと思います。

 世には「政治家」と「政治屋」がいます。そして私は、政治屋ではなく、政治家を目指したいと、衆議院に出ることを決意して以来一貫して言ってきました。

 では「政治家」と「政治屋」はどこが違うのか。具体的な人物を思い浮かべてみればわかりやすいでしょう。たとえばリンカーン大統領のことを、政治屋と呼ぶ人はいません。リンカーンは誰もが政治家と呼びます。あるいは私の選挙区である岡山が生んだ、第二十九代総理大臣・犬養毅、号は木堂ですが、この方を政治屋と言う人はいない。誰もが政治家と呼びます。

 その違いを分けるものは何であるのか。

 生きてきた軌跡に理由があるのではないでしょうか。

 政治家の使命とは、国家、国民、民族の安寧と平和を保つということです。そして、安寧と平和を保つうえでは、歴史、伝統、文化にしっかりと立脚していることが大切です。日本という国の歴史、伝統、文化をしっかりと認識し、感じ取り、これに立脚してビジョンを示し、政策を創り出していかなければならない。私はそう思っています。

 そういう政治家の使命を果たすうえでは、たとえいかなる困難が生じようとも、千万人といえども吾ゆかんという気概がなければならない。哲学を持って、己の信念を貫かなければならない。それが政治家の条件として、第一番目の点でしょう。

 先ほど挙げた犬養木堂は、実際に五・一五事件で暗殺されています。そのとき犬養は、乱入してきた海軍の青年将校と陸軍の士官候補生の一団を、少しも慌てず、応接室に案内した。「話せばわかる」「問答無用、撃て」という応酬があり、銃弾を打ち込まれる。女中たちが駆けつけると、犬養は血を流しながらも「いま撃った男を連れてこい。よく話して聞かすから」とはっきりした口調で言ったと言われています。最期まで言論で説得しようとする犬養らしい信念を貫いた姿でした。

 それから第二番目に、ともすると現代は心よりもモノを優先するという風潮が強い。しかし先に挙げた二人とも、物質より、心、精神性を重んじ、そのために非常に力を尽くした人物です。神を信じ、絶対的なものに謙虚な人でなくてはなりません。

 この、モノより心、精神性を大切にするというのは、政治家にとって決して欠かせない重要な資質であると私は考えています。ことに現代は「物質偏重」という言葉に代表されるように、どうしても心よりモノに偏重してしまいやすい。政治家はそうであってはなりません。

 それから第三番目に、二人とも時代を先取りする先見性に、たいへん優れていました。次の時代のビジョンを持っていました。それもまた政治家として、きわめて重要な点であると言うべきでしょう。

 リンカーンは奴隷解放で有名な政治家です。当時のアメリカ経済にとって、奴隷はある意味で必要悪でした。しかしリンカーンは時代の先を見て、人を家畜のように扱うことは将来、時代にそぐわなくなると確信した。それで奴隷解放に立ち上がり、千万人といえども吾ゆかんという気概で、南北戦争を起こしてまで民主主義を実現します。

 犬養木堂も、このまま軍部の台頭を許してしまうと日本の破滅につながる、と時代の先を読み、軍部の前に立ちはだかりました。結果的には、凶弾に倒れてしまいます。しかし、その後の日本の歩んだ道を検証すると、日本は軍国主義へと突き進み破滅の道を歩んだわけです。

 一方、「政治屋」の特徴は、いわゆるポピュリズムです。政治家にとって本来もっとも大切な、国家、民族、文化と伝統を守ることや、国民の安全平和よりも、今流行している目の前の空気に迎合して、一時的な人気取りをしてしまう。目の前の出来事に流され、モノに流され、政治家本来の大きな使命を忘れてしまう。

 ポピュリズムの危険な点は、短期的には人気が上がるが、長期的にはそれが国家の運命を大きく狂わす場合があることです。その代表的な人物がヒトラーでしょう。彼は独裁者だと言われたが、実際は国民を熱狂させ、その人気によってドイツの総裁になった。そして国を破滅に導きました。

 日本を振り返ってみると、今、政治家はあまりに少ない。政治屋が限りなく多い。そのことが、日本国民が政治に不信感を持っている一因であることは間違いありません。

 もう一度繰り返せば、第一に政治家本来の使命を果たすために信念を貫く気概。第二に絶対的なものに謙虚で、モノより心、精神性を重視すること。第三に時代を先取りする先見性、ビジョンがあること。

 私は、この三点を持った政治家像を目指して、ずっと努力してきました。最初に選挙に出たのは今から三十一年前の昭和五十一年(一九七六)ですが、そのときから自分自身に「政治家たれ」と言い聞かせてやってきました。

政治武士道 - 目次
プロフィール
平沼 赳夫 ひらぬま たけお
衆議院議員
昭和14年8月3日生。昭和37年慶應義塾大学法学部卒業後、日東紡績株式会社に11年間勤務。故・中川一郎元農林水産大臣秘書を経て、昭和55年、3度目の挑戦で旧岡山1区(小選挙区の導入により現在は岡山3区が選挙区)から衆議院議員初当選。以後9期連続当選。自由民主党全国組織委員長、自由民主党団体総局長、自由民主党財務委員長、衆議院大蔵・農林水産・議員運営各委員長、大蔵政務次官、運輸・通商産業・経済産業各大臣など歴任。日本会議国会議員懇談会、正しい日本を創る会、北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出するために行動する議員連盟など、様々な議員連盟の会長を務める。平成17年、自由民主党を離党し現在無所属。平沼騏一郎元首相は養父。
政治武士道     平沼赳夫 著
政治家はいかなる理念を持ち、いかに行動すべきか
「政治屋」ではなく「政治家」でありたいという信条のもと、あまたの風雪を乗り越えてきたからこそ、「保守派の星」として存在感が増す。注目される今後の動向の、基本的信念を明快に語る!
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