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Part1
問う側、答える側……

Part2
いっしょに死のう……

Part3
次の展開……

Part4
観る人不在の厳しさ……

Part5
恋愛、結婚、視線……

Part6
裏切りの意識……

Part7
江藤淳氏、自殺の理由……

Part8
死者の存在感……

福田和也コラム
『命』からの柳美里

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portrait
(8/全8回) 2000.11.16

【Part8 死者の存在感……】
福田和也 まあでも、それは決着はつきませんよね、どうしたってね。

柳美里 『妻と私』は何回も読みました。

福田 あの本を読んで僕が感動する、というかすごいなと思うのは、諸井薫さんがちょっと書かれていたけれど全然いい夫じゃなかったわけです、ある意味で言うと。それはあれだけ奥さんが手塩にかけて成功したという意味ではいい夫だったけれど、家庭的な人ではなかった。そういう江藤さんがやっぱり最後の最後にあれだけ奥さんを看病して疲れて亡くなったというのはすごいなと思って。

 きっと書かれている以上に辛かったと思うんです。

福田 それはもう、ほんとうにひどかったと思う。

 肺から脳に転移してしまったということですから、おそらく幻覚もあったと思うんです。愛する人の肉体と精神が壊れていく様を間近で見なければならないというのは耐え難いことですから、やはりいっしょに死の側に持って行かれてしまいます。

福田 だからそういう意味で『幼年時代』という絶筆になった最後の作品は、あれはもう死後の世界から書いてらっしゃいますよね。今までは死んだお母さんと自分の間に隔絶を置いていることで生の距離を取っていたのが、完全になくなってしまっているわけです。

 初めて母の声を聞いたとまで書いてらっしゃっていて、あそこはもうほんとうにおっしゃった死と生の敷居を越えて、死者の側にいらっしゃってますよね。

 私は江藤さんの自死をずっと考えていて、ちょうど江藤さんが亡くなったのは東さんが末期癌だということが発覚した直後……。

福田 去年の7月21日です。

 そのころは丈陽の父親とまだつきあっていたんです。彼とタクシーに乗っていて、西麻布を過ぎたあたりで時事通信が配信しているフラッシュボードのニュースで見たんですよ。

福田 江藤さんという方は、絶対ああいう行為をしない方だと思ってたんですよね。昔から自殺することは汚いことだとおっしゃっていて。だから絶対そうしないと。

 私もそう思ってたんです。だからショックが大きくて。

福田 そう。だからかなりびっくりして。でも考えてみればもちろん分かるんだけれども、なかなかそれがやっぱりしんどいですね。

 匕首を突き付けられている気がするんです。君は何故生きているのかと……。

福田 そうですか。小説家でそういう緊張を感じてらっしゃるのは柳さんぐらいなんじゃないかな。

 東さんの死後、何度かベランダに出て、手摺につかまって、下を覗きました。遺体が安置されているときに……、友引で長引いて、4日も家にいて、弔問客がふっと途切れたときに遺体の白布をめくって顔を合わせると、なんか急かされているような気がしたんです。その急かされている感じというのは、遺体がなくなって遺骨がなくなっても消えないんです。むしろ強くなっていく……。

福田 どうなんだろう、僕はもう全然分からないんですけれども、例えば奥さまが亡くなられてから仮通夜、密葬、本通夜、本葬と4日つづけてされたわけです。もうご自分も尿毒症になって死にそうなのに。しかも立つのがしんどいにもかかわらず、神道は20回も立ったり座ったりしなければならない。

 そんなことをされて非常に体調を崩されて、死にかけて奥さまが亡くなられたのと同じ病院に入院されたんですけれど。すると落ち着かないと言って奥さまが亡くなられた部屋へ入るんです。それではまるで呼んでいるという感じがしてまずいと思ったのですが、でも全然こちらのほうが落ち着くんだよという感じで。

 私もあの病室には行ってみたい。亡くなったときの枕は持って帰ってきて、それで眠っているんです。そのせいでしょうか、ふうっと、夜中に引っ張られるんです。赤ん坊よりも死者の方が引っ張る力は強い。死者の存在感というのは限りがなくて、部屋のなかだけではなく、街にも、空にも、目に映る全てを支配してしまいますからね。  

福田 あともう一つ、退院されて後にもう鎌倉の家はしんどいから帝国ホテルに住むとおっしゃったんですね。最初1日2日目はものすごくゆっくり寝れたとおっしゃっていたのが、3日目になったらやはり寂しくていられないという感じになってしまったんですよ。

 実は亡くなった直後に引っ越そうと思って家を探して、解約の手続きまでしたんだけれども、やっぱり離れられないんです。
 今子どもが一番熱中しているのは、手を挙げたときの影。私が声をかけても振り向かないくらい、自分の指の影に魅入られているんです。丈陽と同じように私は東さんの影から目を離せない。

福田 特に作家のような商売だとね。ずっとそこを見ていかなきゃいけない仕事だから。

 不在感ではなく存在感なんです。影が居て、動きまわっている。東さんの部屋で物音がすると、東さんが音を立てていると思うし、夜中に目を覚まして、小さな蜘蛛が枕にとまっていると、東さんが起こしにきたと思ってしまう……。影に取り憑かれているから、そろそろ引っ越さないとと思うのですが、そろそろをいつにするのか……、踏ん切りがつかないんです……。

(インタビュー全文終了)

福田和也コラム:『命』からの柳美里 もあわせてご覧ください。

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