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Part1
道徳教育が欠落した歴史的理由

Part2
アメリカに見る教育の荒廃と再生

Part3
基本に返れ!



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八木秀次 高崎経済大学助教授   (2/3 pages) 2001.08.20

【Part2 アメリカに見る教育の荒廃と再生】
 教育基本法が有する以上のような根本問題に加えて、今日の教育荒廃をもたらした原因として、アメリカ仕込みの"オルタナティブ教育理論"の影響を指摘しておきたい。

 “オルタナティブ教育理論”とは1960年代後半から70年代前半にかけて、当時アメリカで流行した新左翼の反体制運動の影響を受けたもので、従来のようにすべての生徒に画一的な指導を強制する学校体制はよくないだとか、個人個人には違った教育があるだとかを主張し、壁で仕切られた伝統的な学校の枠から生徒を解放し、人間性を回復させて学校を非管理的で自由な空間にしようという考えであった。

 この理論に基づいてアメリカの公立学校はその頃、生徒手帳から細かい服装規定を一斉に消していき、その傾向を連邦最高裁の判決が後押しをした。

 こうして学校は生徒に学校独自の規律を強制する手立てを失っていった。そのため、口髭を蓄えた男子生徒、イヤリングをつけ手足の爪に真っ赤なマニキュアを塗った女子生徒が現れ、学校がストリート同然となっていった。やがてそれが校内暴力、麻薬・アルコールの乱用、セックス、十代の妊娠へと発展していった。
 児童・生徒の学力が著しく低下し、公立学校への不信が高まっていったのもこの頃である。その主たる原因は学校環境の変化による教師の指導力の低下である。

 中産階級の親たちは、子供を公立学校にはもはや託すことはできないと考え、学校にやらずに自宅で教えたり、豊かな層は私立学校に子供たちをやるようになっていった。
 教師たちは学校の規律の乱れや学力低下によって生徒指導や教科指導に手を焼き、自らの無力感にさいなまれたり、生徒からの暴行や傷害の危険を感じて、精神的ストレスから「燃えつき症状」に陥るようになっていった。

 オルタナティブ教育理念による以上のような"病理"現象を憂えて立ち上がったのは当時の父母たちであった。父母たちはオルタナティブ教育理論のいう教育の「自由化」「人間化」「社会化」が放任、甘やかしとなり、子供たちのわがまま勝手を許し、親や教師の権威を否定し、その当然の結果として非行や犯罪の激増、学力低下を招いたとして、70年代後半以降、「基本に返れ!(Back to Basics)」を合言葉に、宗教家や政治家、地域の指導者などを巻き込みながら教育を立て直すための草の根運動を展開していった。

 ここでいう「基本に返れ!」とは、(1)読み・書き・計算(3R's)の充実、高校ではこれに加えて科学・歴史・外国語の重視、(2)児童・生徒中心主義から教師主導型への移行、訓練・宿題などの充実、しつけ指導、時には体罰も、(3)進級・卒業認定を厳しく――ということで、これはオルタナティブ教育理論と決別し、伝統的な教育の在り方に回帰しようというものであった。

 この父母たちによる教育正常化の動きに呼応したのが81年に政権に就いたレーガン大統領である。レーガンは「強いアメリカ」を再生させるためには何より教育を立て直すことが緊要であると考えた。教室に再び「祈り」と聖書を復活させるとともに、学校の規律を回復し、「古き良き学校」を再建しなければならないと主張した。また当時まだ健全であった日本の教育の在り方に学べと訴え、各種の視察団を日本に派遣した。
 この教育再生の考えは、その後、ブッシュ政権に受け継がれ、クリントン政権も引き継いで、現ブッシュJr.政権にまで継承されている。

 今日のアメリカの教育再生の考えを端的に示すものに「ゼロ・トレランス」という理念がある。「ゼロ・トレランス」とは「寛容さなしの指導」ということで、もともとは産業界から起こった理念であった。生産ラインにおいて「不良品を絶対に許容しない」という考えが教育界に応用され、子供たちを断じて「不良品」にしないという姿勢がとられるようになったのである。

 今、アメリカの学校ではこの理念の下で、細かい規則を作り、規則を破ればただちに処罰し、程度に応じて場合によってはオルタナティブ・スクールという矯正のための学校に送致し、直れば再び元の学校に戻すという方法で規律が戻りつつある。規律の中で子供たちは逆に伸びやかに生活し、安心して学業に励み、学力も向上していると指摘されている(加藤十八『アメリカの事例から学ぶ学校再生の決めて ゼロトレランスが学校を建て直した』学事出版、2000年)。

(Part3へ続く)

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