【Part3 見逃せない中国の成長】
テロ(新しい戦争)が、国際政治の重要課題として急浮上してきたとはいえ、西側先進国、とりわけアメリカが神経をとがらせているのは、中国の成長だろう。21世紀初頭の段階で、中国の軍事的脅威はさほど感じてはいないものの、その経済成長と国際社会における経済的役割の存在感は日増しに増大しつつあり、場合によれば2010年代の後半は「中国の時代」になる可能性もあるからだ。
たとえば、工業製品の生産量などをみると携帯電話では世界の生産シェアの13%を占め、日本の12.5%を抜いて世界一になったほか、DVDプレーヤー38%(日本18%)、VTR23%(同2.5%)、カラーテレビ25%(同1.3%)、二輪車46%(同10%)、エアコン39%(同18%)、粗鋼15%(同13%)、エチレン6%(同7%)、工作機械6%(同24%)、四輪車4%(同18%)、デスクトップパソコン12%(同3.4%)――などとなっており(いずれも日本経済新聞調べ)、いまや中国は「世界の生産工場」になりつつあるのだ。
そればかりでない。2000年の対米貿易黒字は838億ドルで日本の816億ドルを初めて上回ったほか、外国投資の受け入れ額が年間400憶ドル以上にのぼり、ここ数年の順位はアメリカに次いでほぼ2位を維持し、外資系企業が中国全体の輸出の45%を担っているという。経済産業省が発表した2001年版通商白書によると、中国経済はいまや「高い生産性、購買力」「優秀な技術」「部品産業などの産業集積」によって、生産拠点から技術開発まで視野に入れつつあるとしている。
中国は珠江デルタ、長江デルタ、重慶、北京など8つの工業地帯をもっているが、たとえば珠江の中心地である深セン地区は15年前はわずか数万人の都市だったのにいまや700万人、5万の企業が集積する工業都市に変ぼうした。しかも、土地コストが安く、人件費も日本の20分の1といわれ、生産される製品はかつての「安かろう、悪かろう」のイメージと評判を完全に払拭している。通商白書では、日本がアジア経済を主導する時代は終り、中国がライバルになったと指摘しているほどだ。
中国については、経済の成長はあっても政治や社会の不安定化が懸念されていた。しかし、2008年に「北京オリンピック」開催が決定したことで中国社会は一挙に求心力を増したのではなかろうか。オリンピック開催が決まった時、天安門広場は中国政府の動員とは無関係な市民で埋めつくされたという。北京オリンピックは、江沢民首席や共産党のオリンピックではなく中国国民全体のシンボルになったとみるべきで、おそらく2008年五輪では中国勢がメダルを大量獲得し、大いに国威を発揚することだろう。
と推測すると、ここ10年間に中国が国家的、社会的分裂を引きおこす可能性はきわめて小さくなり、逆に求心力を増大させ、そこへさらに世界の生産シェアを高めれば、ますます中国の存在感は大きなものとなろう。ブッシュ政権が、中国を「戦略的競争相手」と位置づけを変化させたのは、たんに安全保障上の戦略変更というより、こうした中国経済の急速な成長を見込んだためだろう。
【Part4 気になるインドとEU】
戦後の世界で覇権を握ってきたアメリカの戦略は、米本土を攻撃する懸念のある敵を明確にし、同時に地域の覇権国(リージョナル・パワー)を抑え込むことにあったように思う。冷戦崩壊までは、旧ソ連が「敵」であり、冷戦終結後はイラクなど「ならず者・テロ国家」、そして21世紀に入り、世界にネットワークを張るテロ組織がアメリカ本土に危険を及ぼす“敵”とみなし始め、軍組織などの改編にまで手をつけ始めている。
と同時に、主要地域で台頭するリージョナル・パワーがアメリカの利害と衝突するほど大きくなると、その国を抑え込む動きに出る傾向が強かった。中東のイラン、イラク、アジアのジャパン・バッシングなどもその一環だったとみることができる。こうした観点からみると、アジアにおいては当面の戦略対象はやはり中国であり、将来は人口大国であり、ソフト技術がすぐれ、核をもつインドとなるかもしれない。いまのところは、中国をけん制するためインドやロシアと外交関係を強化する動きをみせているが、中国もまた同様にロシア、インド、パキスタンなどとの関係改善を目ざし始めた。
アメリカにとって、もうひとつ気になる地域はEUだろう。EUは同盟国であり、競争相手とはみていないが、EUの通貨統合が完成し、“ヨーロッパ合衆国”がひとつとなって巨大経済圏を形成した時、EUの中で仏・独が主導権を握ってくると、今後の国際問題調整が厄介になると考えるだろう。その点では、同じアングロサクソンのイギリスの役割に期待する傾向が強まろう。