【Part1 10年毎に入れ代わった“強者”】
政治や社会が安定し、上手に運営されるには、強者がつねに控え目に行動するよう心掛けなければならない――といわれる。強者が力をバックに、身勝手にふるまい、自分本位の行動基準を他者に押し付け続けると、必ずいつしかバランスを欠き、反発を招いて政治や社会が混乱するというのだ。
この指摘は、多分、政治や社会だけでなく産業界や人間関係など、あらゆる分野に共通して言えることだろう。だからこそ、強者の側には、恐れずに強者を批判し、アドバイスできる冷静でバランス感覚をもった良き忠告者が必要だし、強者はその主張を聞く耳をもつことが重要なのである。
100年単位で時代をふり返ると、19世紀は大英帝国、20世紀はアメリカの時代だったとみることができよう。だだ、20世紀に入ると、時代の動くスピードの早さから、とくに第二次世界大戦後は、10年毎に時代の“強者”は入れ代わっていたとみることもできる。
1950年代は、人口衛星を最初に打ち上げ、キューバにミサイル基地を設立しようとして、アメリカを震撼させた旧ソ連が勢いをもっていた時代、60年代は、“黄金の60年代”といわれたアメリカ、70年代は石油の値上げで世界のドルをかき集めたOPEC(石油輸出機構)・アラブ産油国、そして80年代は、ジャパン・マネーが世界中を徘徊、“世界まるごとハウマッチ”とばかりに世界の企業や不動産、ビル、名画などを買いまくった日本、さらに90年代は20年以上に及ぶ努力の末、統合を果たしたEUと、とりわけIT(情報通信)とグローバリゼーションを主導し、軍事的にも世界の一極支配をほぼ実現したアメリカの時代が再び到来していたといえようか。
2001年9月に突如、アメリカを襲った航空機による同時テロは、90年代を引っ張ってきたアメリカの経済、グローバリゼーションの動きに大きな打撃を与え、ITバブルの崩壊を加速させるばかりでなく、アメリカの一極支配の動向にも大きな影を落とし始めている。
こうしてみると、戦後の約50年間の時代の変化とそのスピードの早さにあらためて驚かされる。
アメリカは、ベトナム戦争などの後遺症で70〜80年代に辛酸をなめ、たとえば実質賃金でみると70年代以降一貫して下落し続け、80年代末から90年代初めを底として上昇し始めたが、いまだに70年代初頭の水準に達していないのが実情である。冷戦終結後は、湾岸戦争の勝利、IT戦略、グローバルスタンダード(国際基準)の主導などで再び“アメリカ時代”を築いたかに見えたが、最近のブッシュ政権のかなり身勝手な行動が、欧州などにまで反グローバル主義の運動を引きおこしていた。
OPECの一方的な原油価格の値上げは世界の反発を招きその繁栄は一時的なものに終わったし、日本の輸出攻勢や経済バブルも世界の批判を浴び、結果として“失われた10年”以上の停滞を招くことになったといえよう。
【Part2 テロが与えた影響】
アメリカ本土の象徴的な貿易センタービルと国防総省を襲撃した同時テロに対して、ブッシュ政権は“新しい戦争”と定義づけ、21世紀の世界の安全保障にとってテロ撲滅が重要課題になると宣言した。
ブッシュ政権は、当初今後の国際政治、経済、安全保障戦略について「同盟国」「戦略的競争相手」「ならず者(テロ支援)国家」と分類、テロを21世紀の大きな脅威とみなしつつ、MD(ミサイル防衛)構想や同盟関係の再構築などをはかろうとしていた。そこへイスラム原理主義グループの犯行とみられる予期せざる形のテロ(戦争)が発生したことは、アメリカの国際戦略にますます複雑な影響を与えたとみてとれよう。
まず安全保障戦略上では、テロとの戦いを優先課題として位置づけているものの、アフガニスタン(タリバン)との戦争が長引いたり、他のイスラム諸国の反発、報復テロの多発などを招くと、イスラム民族との溝を深める危険性が出てくる。今回のテロ事件が、ハンチントン教授の指摘するキリスト教とイスラム教が対立する「文明の衝突」という事態に進まないよう西側先進国ばかりでなく、イスラム諸国、中国、インド、ロシアなどの国々が細心の注意をもって価値観の相異を認めあう共生の関係を築きあげていくことが必要になろう。
また、今回のテロは、ITバブルの崩壊と反グローバル主義が台頭し始めてきた国際経済にも大きな影響を与える懸念がある。テロの影響で一時的に人、カネ、モノの流れが急速に収縮、減速していたアメリカ経済に一層の打撃を与えたが、このテロ戦争が長引くようだと、グローバル化の波に本格的な歯止めをかけることになるかもしれないし、重要な国際会議の開催が危ぶまれ、世界がますます“内向き”志向に陥る動きが強まるからだ。