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Part1
我が国の安全保障のあり方を考える前に

Part2
戦略環境の予測
(その1 革命的に変化する脅威の実態)


Part3
戦略環境の予測
(その2 日米中三国の関係)




 Profile

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志方俊之 帝京大学法学部教授 (page1/3)
2001.09.12

【Part1 我が国の安全保障のあり方を考える前に】
 「冷戦後の時代」と言っているうちに10年の歳月が流れ、いま我々は21世紀の入口にいる。また日米安保体制も半世紀の節目を迎えた。これを機会にこの先の10年、さらにその結果がでてくる20年さき、すなわち2010年から2020年頃の我が国の安全保障を考えてみよう。そのためには、まず我が国を取り巻く「戦略環境」を見積もり、次いでそれに対する「基本戦略」を考える必要がある。なお編集部からの依頼は「これからの10年」であったが、現在の安全保障をめぐる環境を鑑みると、2010年から2020年頃という時間軸で考えるのが実態に合っていると思われる。その点、ご了解願いたい。

 戦略環境の先を読むといっても、不確定な要因が複雑に絡んでいるから、未知数の数が方程式の数より多い問題を解く数学の課題に似ている。したがって、見積もりといっても何らかの「前提」と「選択」、少くともこれだけは言えるという幾つかの「与件」を設けなければ、解は一定の範囲にまとまらない。

三つの前提
 まず「前提」を三つ置く。第一は、自由、民主主義、個人の尊厳といった我が国が是とする基本的価値や市場経済の体制が急に変わらないこと。第二は、我が国は1億2千万の人口がこれからも小さな四つの島に生きて行かなければならないこと。第三は、これからも我が国はエネルギーや食糧その他の資源を大きく海外に依存し、それに他の国々を凌ぐ高い付加価値をつけて海外に輸出して生き抜いてゆくこと。

 わが国は年間約8億トンの資源を輸入し、約1億トンの製品を輸出している。出入り9億トンの海運量は、世界の総海運量51億トンの17%に当たる。輸入の約80%は、中東地域からインド洋を越え、マラッカ海峡を通過し、南シナ海、スプラットリー群島の西方海域をすり抜け、バシー海峡、台湾東方海域、東シナ海を通って、やっと我が国に辿りつく。

 この長く延びた海路、いわゆる海上連絡線(Sea Line of Communication, 以下SLOC)に沿って多くの不安定な地域があり、我が国が直接関与しなくても、どこかで紛争が起これば、直ちに我が国の生存が脅かされるのである。したがって、我が国ほど世界全域の平和と安定とを必要とする国はないのである。
問題は我が国は何によって世界の平和と安定に貢献するかである。

一つの選択
 筆者は約400名の大学生にアンケートをしたことがある。我が国の将来の国家像を三つ挙げて、その内の一つを選択させる設問である。選択肢Aは、我が国は今のように「大国」の一つであり続けることを目標とするものだ。選択肢Bは、大国であり続けることは負担が大きいから、一応の国際的な義務は忠実に果たす模範的な「中規模国家」であることを目指せばよいとするものだ。

 選択肢Cは、資源のない小さい島国に1億2千万もの人口が生きてゆくだけでも大変なのだから、他に迷惑をかけずに自国民が平和で豊かに生きてゆければよい、いわゆる「小市民国家」でよいとするものだ。このアンケートに対し、85%の学生がCの小市民国家、10%がBの中規模国家、5%がAの大国であるべきと回答した。

 我が国は、明らかにAの選択をし続けているにも拘わらず、次の世代を担う若い世代の多くがCの選択をしていることは大きな問題である。人口が1億を越え大量の資源を海外に依存しなければ生きて行けない我が国が、国際的に発言力も影響力も放棄した小市民国家であれば、世界のどこかで地域紛争が起これば、たちまち存続の危機にさらされるからである。したがって、小市民国家という選択肢は、現実には選択肢の一つとなり得ないのである。中規模国家としての選択肢も然りである。

 世界の国々が我が国に大量の資源を定常的に供給してくれること、我が国の製品を喜んで輸入してくれること、世界の果てまで延びている我が国の海上連絡線(SLOC)の安全が保障されるという三つの要件のどれか一つでも損なわれれば、我が国は今の経済レベルを維持して生存することはできない。我が国には、政治・経済・外交の面で、世界の平和維持に貢献する強いリーダーシップを発揮できる大国であり続ける以外に、他の選択肢はないのである。

 そもそも、BとCの選択肢は、「われらは平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う」とする日本国憲法に違反している。

踏まえるべき10項目の与件
 次は、我が国の安全保障を考える上で、2010年から2020年にかけても、これだけは言えそうだという「与件」を踏まえておくことである。

(1)国連の安全保障機能には限界がある。多国籍軍によって何とかもたらされた平和を維持する機能だけで今のところ精一杯である。

(2)大量破壊兵器(とくに化学兵器、生物兵器、弾道ミサイル)の拡散を防ぐことは難しい。

(3)核軍縮の速度は遅く、当分の間は核兵器の存在を無視して安全保障を考えることはできない。

(4)米国の軍事力や情報力における一極優越は当分続き、アジア太平洋地域に前方展開している軍事力を凌ぐ軍事力は当分現れない。

(5)いまや唯一の軍事大国となった米国といえども、「力の行使」には国際社会の同調・支持が必要である。これから国際社会が力の行使を容認する可能性が大きいケースは二つある。一つは、ある国が政治的、外交的、軍事的に国際ルールを無視した動きにでた場合(湾岸戦争タイプ)、もう一つは、独裁的な政権または無秩序によって非人道的な行為が行われた場合(コソボ紛争や東ティモール紛争タイプ)である。

(6)朝鮮半島と台湾海峡での国家分断は当分続くこと。

(7)中国は「超大国」への歩みを続け、同時にそれがための国内的、国際的な問題も顕在化する。

(8)東南アジア諸国は、今後とも政治の民主化、安定的な経済成長、国家統一の問題と取り組む。また同地域の中国系の経済力は大きく、自ずから中国経済の影響を受け易くなる。

(9)ロシアはヨーロッパ・ロシアの再生に国家的努力配分の重点を置くから、東アジア太平洋地域への関与は当面限定される。

(10)国際社会は、四つの要因で二極化する傾向が出てくる。まずNuclear divided、いわゆる核保有国と非核国との国際的発言力の差は益々大きくなる。Digital dividedはもはや説明を要しない。Genome dividedは高度な遺伝子技術を利用できる国とこれに遅れた国との格差は大きくなって、一旦差がつくと追いつくことは難しい。パレスチナ問題でも分かるように、Value dividedは宗教や価値観の異なる集団の隔たりは容易に埋められず、他の要因とも絡んでむしろ拡がることさえあり得る。

(Part2へ続く)

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