【Part1 「ナショナル・セキュリティ・ミニマム」の確立】
良好な治安は最大の社会福祉である。20世紀後半、敗戦の大打撃から立ち直った日本は、世界一治安のよい国という「安全神話」に包まれ、平和で豊かで幸せだった。
日本は危機管理が下手であるが、危機管理システムを考えなくてもよいほど平和で安全だったのだ。それは戦後日本の民主警察が精強で使命感、責任感に燃え、「護民官魂」に徹していたからで、国内治安、危機管理の諸問題は一切警察任せで、自衛隊の治安出動は1回もなく凌ぐことができた。
危機管理の対句として、またその前提として「安全管理」という概念がある。この安全管理が忠誠な警察によって果たされていたから、危機管理後進国で過ごせたのだ。しかし、安全と水はタダではない。「安全管理」にもっと資源配分をしておくべきだったのに、日本は安全神話の桃源郷に浸っていて安全にお金をかけなかった。
世界情勢、社会情勢の大転換によって「安全神話」が崩壊した今、そのツケがまわってきたのだ。これからの10年に、まず真っ先に手をつけるべきは、まず第一に「ナショナル・セキュリティ・ミニマム」の早期確立である。
「ナショナル・セキュリティ・ミニマム」とは、1950年代以来日本警察が目指してきた「最低限の治安維持力」のことである。
1億国民に対し、警察官一人当たり人口負担500人の20万警察官定数の確保がその目標値だった。この人口負担比は、
米 国 385人
英 国 395人
フランス 293人
など、サミット国と比較して決して多い数ではないが、これまで一度も達成されたことがなく、人口1億3千万の今日、警察官定数は22万8843人、一人当たり人口負担約551人と警察官の数が絶対的に不足している。
特に東京周辺の埼玉県警が760人を超え、茨城、千葉、栃木県警いずれも700人台で、ストーカー殺人事件、家出行方不明者問題などで応訴の初動措置が悪く、国民の信頼を失うような不手際は、この人口負担が欧米の2倍といった県警で起きていることも注目に値する。
加えて警察官の勤務体制の近代化、労働条件の改善の結果、週48時間の超過労働であったものを週40時間に改訂した結果、事実上勤務配置に就いている警察官を20%削減したのと同じになった。街頭や捜査勤務の現場警察官の数が著しく減少し、現行犯逮捕が減り、検挙率の著しい低下(平成13年上半期の刑法犯の検挙率は19%と過去の最悪を更新、凶悪犯検挙率も約54%強で急低下している)をもたらしている。
警察費も国民一人当たりの負担はアメリカの約5分の1(15万円対3万円)、国費約2200億円、地方費(主に人件費)約3兆円、計3兆300億、人件費がそのうちの約75%、国民一人当たりの警察費負担は約3万円で、日本がいかに「安全神話」の夢に耽っていて、平時の「安全管理」にお金をつかってこなかったかを如実に物語っている。
「交番制度」は日本の誇る警察制度だった。アメリカ、イギリス、シンガポールなど、各国が日本に学んで交番制度を導入しているのに、本家本元の日本の交番・駐在所は、人員不足のため空き交番になっていて、これが急訴に即応し現場に急行して現行犯逮捕を期するという、日本警察の治安維持力を低下させた。
このたび警察庁は、平成14年度予算に警察官5000人増員要求を盛り込むことを決定したが、これは「ナショナル・セキュリティ・ミニマム」達成のための遅ればせの第一歩にすぎない。
1995年3月、オウム真理教・地下鉄サリン事件が勃発したとき、政府は一時泰平の夢からさめて警察官の絶対数の不足を悟り、警察官1万人緊急増員を決定し、96年度に3ヶ年計画初年度3500人の増員を行ったが、オウム真理教幹部が一斉検挙され、カルト犯罪が鎮静化すると、あとの6500人の増員は棚上げされ、忘却されていた。そのうちの5千人分が今回の増員要求となった次第だが、「ナショナル・セキュリティ・ミニマム」を実現するためには、1億3千万の人口に対し24万人強の警察官が必要であり、なお1万人余りの将来の増員が考慮されるべきだろう。
公務員25%削減という行政改革の大号令の下で、警察官増員を逆風にさからって要求するのは勇気を要することだが、警察官増員と小犯罪の撲滅を掲げてニューヨークの治安回復に成功したルドルフ・ジュリアーニ市長の例にならって警察官増員を図るべきである。
【Part2 国と地方の警察事務の再配分】
現行の警察法では、職務執行(ラインの運営管理、警備公安、刑事、生活安全、交通など)は地方警察の任務で、デスクの行政管理(警視正以上の人事、教育訓練、装備、通信など)は警察庁所管の国の事務とされている。しかし、近年犯罪が国際化し、組織化し、広域化して、一県警では対処し切れない任務が増大しつつある。
たとえばサミットなど国際大行事、国賓の警備、国連PKO活動に対する文民警察官派遣、全国規模のカルト犯罪集団、密入国、けん銃、麻薬の密輸組織、ハッカー犯罪、化学事件・事故、広域暴力団、テロリスト集団などは、地方自治体警察の縦割り行政では対応できず、FBIのような国の執行権を有する捜査機関の創設が必要となってきている。
英国でスコットランドヤードが事実上国家警察の機能を果たしているように、警視庁を強化して上記の国家警察の任務と権限を附与するのも一つの考え方だろう。