【第4回 日本人は、必ずやりきれる】
■時代がリーダーをつくる
○福田和也 嘉永6年のペリー来航から明治維新になるまで、15年しかかかっていないわけです。300年の体制を15年で変革した。おっしゃる通り新しい国家を創るポテンシャルは、日本の民族には必ずあるはずです。
一方その時と違うのは、やはり澎湃(ほうはい)と出てくるリーダーや知識人をもうわれわれはだいぶ長いこと、持てなくなってしまった。そこをどのようにもう一度取り戻すのか。
先ほどおっしゃった、インターネット時代の自立した人間という問題と、日本の中でリーダーをどう育てていくのかということは重なると思うのですが、この点はどうお考えですか?
●小沢一郎 まあ、いっぺんにそれは変えることはできないけれど、昔からの言葉に「家貧しくして孝子顕わる。世乱れて忠臣を識る」(『宝鑑』)というのがありますね。
一番駄目なのが永田町、霞が関、大手町をはじめとするリーダーの階層だけど、国民の意識が変わってきてますから。「これでは駄目だ」というところから優れたリーダーが現れる可能性はあるんじゃないだろうか。
今回もやっぱり黒船かなあ……。日本は平和に豊かに暮らしてきたから、何か目に見える事態が起きないとだめかもしれないけれども、しかし一朝事あれば、その時には私は人材は雲の如くというふうに思っていますね。今は埋もれていて分からないとしても。
僕は今回(2000年6月)の衆議院選挙で変わると思ったけれど、今でもおもてに表れる意思表示では「旧体制の維持」で、自公が過半数を取るんだから。国民はもうひとつ、決断できないなぁ。というのは、切迫した危機がないからでしょう。だからどうしても、「変えよう」と決断するところまではいかなくて、まだおっかなびっくりなわけ。
だけど、時代がリーダーをちゃんと求めるし、時代がリーダーをつくる。だから、そのことは全然心配していない。日本にいっぱいいると思っていますよ、隠れたリーダーは。
■官僚統制の功績と弊害
○福田 少しテクニカルな話になりますが、日本が中国から入れなかったものとして宦官と科挙の二つがあり、これは見識だと言われている。ところが科挙を明治から始めたわけですね。むしろ江戸時代のほうが、例えば藩官僚といった登用システムのように、身分よりも実力を重視した抜擢がありました。
じつは江戸時代のほうが自由で、明治以降のほうが硬直化しているというふうに考えると、現在のような科挙的な登用というのは、どうも日本に向いてないんじゃないかという気がするときがあります。
●小沢 うん、そう思いますね。ただ、明治維新の時にはあれが必要だったんだね。
やっぱり追いつき追い越せの、『坂の上の雲』をめざすためには、ああいう組織が必要だったんでしょう。明治時代はそれなりに、是非の議論はあったとしても、機能してきた。
ところが、今度は悪い面ばかりが残ってしまって、敗戦を挟んで今日にまで及んでいる。戦争に負けてもそのシステムは生き残ったですからね。それが続いている。おっしゃるように、江戸時代もまあかなり官僚化してしまったけれども、それでもいろいろな下層の人物を登用したりしましたね。
○福田 勝海舟のお祖父さんは按摩さんですからね、検校(けんぎょう)でした。
●小沢 薩摩藩でも長州藩でも、明治維新の立役者は皆、下層の武士ですからね。あるいは庶民の中でもそうでしょう。商人はほら、女相続でしょう、たいがいは。そう言われてますよね。
○福田 はい、特に大阪はそうですね。
●小沢 どら息子なんか絶対跡継ぎにさせないで、いい番頭を娘の婿にして、跡を継がせるという。あらゆるところで、そういうことが柔軟に行われていたと思う。日本社会を通じて、そういう面はあったんじゃないんですか。ただ、結局、朱子学、武士の観念的な質の悪いところだけが、ずっと残ってしまったということだと思うけど。
行政改革と地方分権について調べていると面白いんですが、基本的に日本社会というのは、もうずーっと分権なんですね。分権が実施されてきている。江戸時代でも地付きの農民はみな自治でやっていた。だからこそ国替ができたわけで、あれが全部領民まで連れていくのだったら国替なんかできっこないんだから。
そういう意味で、日本の社会というのは、歴史的にもずっと自治の意識というものがものすごく発達していた。おっしゃるように明治の官僚統制、中央集権の悪いところだけ残って今日に至っているが、地方自治というのは本来日本人の意識の中にはちゃんとあるから、やればできるんです。むしろ地方自治のほうが、ある意味で本来の姿だと言ってもいいと言う人もいるくらいにね。
だから、僕はそういう意味で、やりきれると思っている。日本人はその能力とその資質を持っているのだから。高度成長はもたらしたけれども、今や弊害のほうが大きくなってしまったこの官僚統制社会のシステムを変えるということをね。
しかしやはり何か、あれなんだなあ……、目に見える、何というか切迫した危機感とか何かがないと、もう歴史的に太平に慣れているからね、日本人というのは。まあ、そこがね、うまくこうタイミング良く、きちっと行けるかどうかということにかかっているんでしょうね。
○福田 本当におっしゃる通り、地方分権にしても何にしても現場のマネジメント能力というのは非常に高いので、それは期待できると思うのですが。
問題はやっぱり、もう昭和期からそうですが例えば日本の陸軍でも、現場の能力は非常に高かったわけです。兵隊も下士官も優秀だった。ところが指導部での戦略が全くつくれていない。だから地方は心配ないとしても、さっきおっしゃった本当に数パーセントのですね……。
●小沢 リーダー層が駄目なんですよ。