【Part1 ヤリの代わりに携帯電話を持つマサイ人】
―― 昨年は、6年ぶりにケニアに行かれたそうですが、ずいぶん変わっていたでしょうね。
西江 かつて何度も滞在したマサイ人の村も久しぶりに訪れましたが、変わりましたね。一番変わったのは、情報機器の普及がその地にまで入り込んできていたことです。
わずか十数年前までは大草原をヤリを持って闊歩していたマサイの戦士が、今ではヤリの代わりに携帯電話を持っていたりします。日本の旅行会社などと組んで、インターネットを駆使し、観光客を案内している人もいます。
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大草原を闊歩していたころのマサイの戦士 |
もちろん、アフリカの草原は昔のまま美しいし、ライオンなどの動物も自然のまま生きています。マサイ・マラ動物保護区は、マサイの土地なので、マサイが四輪駆動の車を運転し、観光客と共に大草原を走りまわります。
昔は野生動物のことを知りぬいた人がガイドになって、“俺の知っているところへ行けばライオンが必ずいる”とか言って案内していたのですが、今では無線電話で動物の居場所をガイド達が互いに連絡しあったりしています。
―― 情報機器がそこまで普及しているということは、電源などのインフラも整備されているのですか。
西江 自家発電装置からの充電などを利用しています。今は、通信設備などは、ワイヤレスの時代に入っていますから。
ワイヤレスの時代ということは、言ってみればこんなことでしょうか。
最近までであれば、何人かの人間が無人島に行ったとすると、まず、最初に自分たちが住む小屋を作りました。それから、隣の小屋までの道を作ります。さらに人々は島の内部に向かって移動を始め、それに合わせて電線や電話線を引き、水道を引き、といった形で、だんだんと奥地へ分け入っていったのです。
つまり、人間は道路や電線、電話線、鉄道といった線でつながる形で、奥地へと押し寄せていったわけです。その線が果てる所からが秘境と呼ばれる場所になるのです。
ところが、ワイヤレスの時代というのは、線の必要がありませんから、奥地や秘境というものが無くなってしまう。情報機器が可能にする時間と距離の人工的な短縮は、生活のあり方をも大きく変えてしまう。これは、大変なことです。
―― マサイも一気に国際社会に組み込まれてしまったということでしょうか。なかには、今でも昔と同じ生活をしている人たちはいるのですか。
西江 外見的には、それらしき生活をしている人は多いです。しかし、心は現代の生活者に変わっています。マネー経済が世界の隅々にまで浸透し始めたからです。政治的にも80年代ごろまでのような国際政治の中で右だ左だという感覚は薄れてきました。
人々はそうしたことにあまり関心がない。関心があるのは、どうやって現金を手に入れるか、ドルがどれくらい値上がりしたか、ロンドンやニューヨークではどんな事が流行っているのか、といったようなことです。
近いうちに、マサイ人のなかにも、朝、牛を追って草原に行き、自分は草原にどっかり腰をおろして、ノートパソコンでロンドン市場を見ながら株式投資に熱中する人も出てくるでしょう。生活のある領域への関心のあり方は、ケニアも日本も、世界中、さほど変わらなくなってきたのです。