【第3回 対外姿勢の原則とは】
●中西輝政 アメリカは世界における超大国であっても、しかしアジアでは中国がナンバーワンの発言権を持つということをアメリカに認めさせていく。アジアにおける超大国は中国であるべきだ、と、こういう発想なんですね。
この国家目標が今、中国国内情勢の動きとも絡んで、かなり前倒しに性急に出てきているんです。そしてこれが今の朝鮮半島の動きと非常に密接に結びついているということの何よりの例が、韓国と北京が非常に近くなりましたね。
韓国の外交人事をみていますと、去年あたりからワシントン・シフトが北京シフトに変わっている。これはよく言われる大使の人事などがそうですね。韓国の新しい北京大使は、外相を歴任したようなトップの政治家です。ワシントンに送った韓国大使は、ごく平凡な一学者なんですね。知名度もそんなに高くない人です。これは戦後の韓国外交にはなかったことです。
金大中政権は、日本に対してこの2年ほど「日韓新時代」と称して宥和的態度をとってきました。「反日」という韓国の看板をおろし日本に接近してくれてありがたいと、われわれは喜んでいたわけですけれども、はたしてそうでしょうか。金大中氏は北朝鮮や北京に接近していくときに、日本やアメリカに後ろから引き止められたり、邪魔されたりしないように、まず日本を引きつけておく、という迂回外交を行ったのです。
それで対日急接近、「日韓新時代外交」というのがこの1、2年、熱心に追求され、これはうまくいきました。こうして後顧の憂をなくしておいて今年、金大中氏はピョンヤンに乗り込んだわけです。
金大中政権は劇的な形でアメリカに対して、やや冷やかになってきている。これは何人もの韓国の専門家から私が聞いた話ですが、現在韓国政府の内部では、将来的に在韓米軍をどうやって撤退させるか、ということが実は重要議題となっているという話なんですね。
中国と日本を引きつけておけば、アメリカなどいらない、これが金大中氏の発想でしょう。
これは、日本人はしっかり考えなければならない重大問題ですよ。中国、南北朝鮮、これが少しずつ1つのブロックになろうとしている。そのブロックVS日米という構図が現状なのかもしれない。ここで日本が焦って北に近づけば、ブロックの壁を越えて動くことになり、アメリカの立場はガタガタになってしまう。
クリントン政権の末期において、アメリカが北朝鮮に対し「テロ支援国家」という指定を解除する、あるいはナンバー・ツーの訪米を政府を挙げて歓迎する。そういう対応をとっているのは、これは明らかに朝鮮半島で中国がもうアメリカを凌ぐ影響力を持ち始めた、それに対するアメリカの必死の巻き返し外交なのです。ですからなにもアメリカが急に北朝鮮を信頼し始めたとか、北朝鮮のテロをやらないという約束を信じたということではないのです。
そういう中で日本がどう動くべきかというのは、非常に重要なことですね。下手するとアメリカは日本より先に行くかもしれません。そこで、日本が筋を通して拉致疑惑だなんだと言っているあいだに、アメリカはもっと先に行ってしまうから、日本も負けずに日朝正常化を急げ、などというのは論外ですね。
もし今、拉致問題もミサイルも何もかも振り捨てて日本が突っ走れば、おそらく日本の国としての立場は全部崩壊しますよ。
ですからそこでアメリカと無関係に、アメリカがどう動こうと、日本は日本の道を行かなければいけない。というのはアメリカはアメリカの先に述べたパワー・ポリティカルな利害で動いているのです。それゆえ日本は今こそ自分自身がもう一つの一極として、自らの立場、自らの外交、自らの主張、自らの国益というものを始めて押し出す、非常によい機会なのです。
それを貫徹すれば、日本は21世紀の初頭に際して、いちばん大切なこの半島問題でしっかりとした対外姿勢の、まず第一歩を記すことができる。私はそう考えています。これは大きな分かれ道ですよ。
ここで日本が下手に走って北や中国になびくと、こんどは中・日・南北朝鮮VSアメリカという構図ができます。そうなれば、東アジアの安定は明らかに崩壊し、日本はいずれ中国と南北朝鮮の言いなりになるしかない哀れな国になり果てるでしょう。
アメリカは日本よりも先を行っているようですが、必ず戻りますから。また、万一アメリカが日本を置き去りにして本当に中・朝と握手するなら、日本の自立を世界にアピールするさらに良い機会ともなります。
ここに私は日本が「パワー」になる、一極を成して立っていくということの意味がわかると思います。
そして21世紀において長期的にこういう奇妙な大陸・半島連合による圧迫に日本がさらされずに、より確固たる自立の基盤整備にかける時間かせぎができるわけです。このように見てくればおのずから、一極としての日本の立場を構築する方向が国民にも見えてくると思うのです。
○福田和也 いま、いちばん大切な朝鮮半島問題というふうにおっしゃいましたけれども、まさしく本当に、朝鮮半島が大陸とワンセットになったときにどういうことが起こるかということは、もう歴史的に明らかなことです。唐の時代しかり、元の時代もそうです。
非常に恐ろしく、日本の存立にとって致命的な問題だと思うのですが、それに対してしっかりした態度を貫けるかどうかということが、非常に重要なポイントになってくる。ですけれども、現在の状況というのは、なかなかそうなっていませんね。
●中西 たとえば現在の状況について、北朝鮮への50万トンのコメ支援という話を聞いて、私はこれはよほど確実な言質をピョンヤンから日本の外務省は聞いた、としか理解不可能でした。
確実な言質とは、もうミサイル開発もやりません、拉致被害者も全員解放します、責任者も処罰します、ミサイルの再発射はもうありえない、核は全部日本にも査察をしてもらいます──ここまでの約束か、仮の譲歩がピョンヤンからあれば50万トンのコメ、お金になおすと1200億円ですから大変な金額ですけれど、私の外交計算では、まあかろうじてバランスするかというところです。
それぐらいの確実な言質が日本政府に寄せられたから踏み切ったということであれば、かろうじて正当化できると思いますけれども、そういう状態がないままにこんなことを決めたとすれば、非常に重大な問題です。もし本当なら、森政権の外交は崩壊し始めた、ということになります。
国際的にみて、日本のこれまでの主張をまったく覆すような意味を持つ動きですよね。普通に考えてみれば、2人の人間がいて、これが口論している。さらっていった人を返してくれとか、不審船だとかミサイルの話で一方がいろいろ文句を言っている。一方は知らん振りをしてまったく対応しない。
そこで文句を主張しているほうが、大変な金額のお金を相手に渡すということになれば、当然まわりの人々は「主張していた人はあの主張は全部取下げたんだ」と思うでしょう。そういう意味合いを持ちます。これは子供が考えても明らかなことですね。
そうであれば外交上あってはならないことで、これだけの前言を翻すような大転換をするなら、よほどのはっきりした根拠があるはずですね。その根拠があるか否かは、いずれすぐにわかるでしょう。それから政治家が近い将来全責任を負うという覚悟を持ってやっているのかということですね。
その場合、河野洋平外務大臣はこの責任を、どういう格好で取るのでしょうか。その責任をとるべき時期はかなり早くきますよ。おそらく今年中にくるのではないでしょうか。
たとえば野中自民党幹事長や亀井政調会長などが「20世紀に起こったことは、20世紀にケリをつける」と口癖のように言っていますが、ならば2000年に起こった過ちは2000年中にケリをつけてもらいたい。おそらく北の対応をみれば、50万トンのコメが無駄だったということになるでしょう。日本がどうしても勝ち取らねばならない、北の譲歩は、やはり拉致問題ですよ。
これはもう国家としての日本の主張そのものだし、また現実に被害がいま現在続いているわけですから。「正しい孤立」を貫き通す覚悟が大切で、日本人もかなりの部分が支持するはずです。
そういう意味で、この拉致問題のケリのつけ方が、日本の「出発点」か「崩壊点」かのいずれかになると私はかねてより申し上げているわけです。
原則の主張というもの、それを自国の国力と精神力の重みをかけて貫く。21世紀には、こういう行動の仕方が非常に重要です。アメリカが先に行き、オーストラリアもイタリアもみんな国交を持ったとしても、日本はいちばん後でいいじゃないですか。「それがどうだと言うのだ」と、世界に問い返す自己主張をするこれは絶好の機会です。
それが日本という国が、21世紀に立ち上がる最初の関門となっています。ここを避けて通れば、21世紀に日本の進むべき道というのはまったく開けてこないと思うのです。