【Part1 アジアの冷戦は終わっていない】
これからのアジアの安全保障を考えるうえで、決して忘れてはならない点は、アジアには古いタイプの冷戦構造が依然として残っているという問題である。冷戦とは「社会主義と資本主義」あるいは「共産主義と自由主義」という対立だったが、これが今でも残っている。中国は断固として共産党の独裁体制であり、北朝鮮も同じ状況にある。インドシナ三国も、市場経済がどんどん発展しているとはいえ、政治システムは依然として社会主義、共産党の独裁体制である。
イデオロギー的な対立を基軸にした冷戦構造が残っていることが、アジアの安全保障問題を考えるうえで一番のポイントだといえよう。そこを無視して考えると、他の問題もみなピントはずれになってしまうと思う。
なかでも主役は明らかに中国である。
中国がどう出るのか、あるいは中国自体がどう変わっていくのかが、安全保障の上でも決定的に重要である。
中国は89年の天安門事件以来ずっと2桁ペースで国防予算の増強を続けてきている。今年(2001)も17・0%の対前年比増強をした。しかもこれは表に出る数字であって、他にもミサイルを開発したりといった軍事費トータルで考えると、その何倍もあるとみなければならない。いま中国を攻撃しようなどという国は、どこにもない。それにもかかわらず、かくも軍事力を増強している点は、アジアの安全保障を考えるうえに決して無視することのできない大きな問題である。
なぜ中国はそんなに軍事力を増強するのか。アメリカの単独覇権に対し、中国は絶対それを許さないという意思があるからだ。言い換えれば、中国自身が覇権国家となるための21世紀戦略を持っているということである。今回の同時多発テロへの中国の対応にもそれは表れている。上海で開かれたAPEC首脳会議に際しても、参加国が一斉にアメリカの条件で反テロ戦争を支持することにならないように、したたかな修正案を出していた。
中国の軍事力増強にはいくつか理由があるが、例えば法輪功という擬似宗教団体が非常に大きな力を持ってしまった。中国社会にある一種の「空洞」を埋めているわけだが、こういう存在を抑圧するためにも軍事力なり警察力が必要である。また中国領域内の少数民族、チベットや新彊ウィグル自治区などはしばしば離反運動が起こっており、それを抑えるという意味もある。そして言うまでもなく、中国にとって一番気がかりな台湾の動きである。台湾の民主化は独裁国の中国にとってまさにアンチテーゼであり、その台湾の独立を絶対中国は認めたくない。それを防ぐためにも、軍事力を増強している。
そのようないくつかの要因が重なり合って、今日の中国は非常に軍事志向が強い。
すなわち中国が民主化されて自由な国になり、軍事力でものごとを解決しようとする姿勢をやめるまでは、アジアの安全保障の問題はずっと火種を抱えたまま残るのである。それがまさにヨーロッパにはない、あるいは米露間にはない注視すべき問題だといえよう。