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松本健一 評論家・麗澤大学教授 2001.08.28

 小泉政権では日本経済の再生はおぼつかない、という声が出はじめた。これは、株価が低迷し、失業者が増大していることに対するマスコミの、いや市場の声といえようか。

 しかし、構造改革なくして景気回復なし、というのが、小泉首相が参議院選挙中に叫びつづけてきたことだった。その結果、選挙は自民党のいちおうの勝利に終わり、小泉人気はあい変わらず高い。そうであれば、7月の完全失業率が5.0%となったことについて、小泉首相が「失業者がある程度増えるということはやむをえない。ただ、そのための雇用対策はしっかりとやっていく」(8月23日)と答えているかぎり、その対応を見守ってゆくしかないだろう。

 それよりも気にかかるのは、小泉政権の外交政策の不透明さと、靖国神社参拝や歴史教科書問題でみせた判断のブレであろう。小泉首相は「アメリカが日本を旧日本軍から解放したとする気持ちが強い」といって対米付随の姿勢をみせる一方で、田中眞紀子外相のほうは中国寄りの立場をとっている。また、小泉首相は中国や韓国の批判を考慮するかたちで、8月15日の靖国参拝を前倒しにして13日におこなった。わたしはそれを変節などといいたいわけではない。政治家にはその信条にのっとったどのような発言も可能だが、それが外交問題に発展したら政治家としては失格であるからだ。

 要するに、小泉首相の人気の高さは、それがいまだアイドル政権であることによってであって、その政権がなした「政治」の結果ではないのである。では、われわれ国民はその結果をじっと待っているべきなのであろうか。

 小泉純一郎という政治家のもっている特質は、大衆の人気をつかむ能力をもっていることである。これはポピュリズム(大衆迎合主義)に陥りやすい要素でもあるが、現代のようなマスコミやジャーナリズムの力が肥大化した時代にあっては、民主主義それ自体が多かれ少なかれ、ポピュリズムの性向をもっている。

 としたら、政治がその弊害にそまらないためにも、また政権が判断のブレを熟慮の過程内に収めておくためにも、小泉首相が構造改革をおこなったうえで実現すべき日本の国家デザインを示しておくことだ。竹中平蔵・経済財政政策担当相は、構造改革によって「10万から20万の失業者が日本社会に発生する恐れがある」というが、構造改革をすすめないうちからすでに失業者が増えはじめている。

 小泉首相は構造改革にともなう「痛み」を国民で分かち合って、明日を良くしよう、と「米百俵」のエピソードを例にとって主張している。しかし、国民が本当にその「痛み」に耐えることができるのは、10年後、20年後の日本はどうなっているか、という国家のグランドデザインを示されたときである。

 それまでは、「痛み」それ自体がまだデフレ、つまり物価の下落現象によって全体として吸収されていることもあって、アイドル政権の人気はそれほど落ちないだろう。平常時の首相なら人気があればそれだけでいいのである。

 ただ、現在の、つまりわたしが「第三の開国」期とよぶ非常時の宰相として要求されているのは、冷戦構造解体後の、21世紀の日本をどのような国家としてゆくのか、国民にどう生きていってほしいのか、というグランドデザインを示すことだろう。

(終)

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