【第2回 なぜかくも愛情がないのか】
●前田日明 でも、今の日本の社会を見ていると、俺、その小林秀雄の文章に象徴されると思うんですよ。
自分の身近な、例えば格闘技についてのマスコミのあり様、彼らの論評と称するものを見ていると、本当に愛情がないんですよ。それをなぜなんだろうって考えて、なぜそう感じるんだと思いつづけていたんですけど、まさに小林秀雄の書いた文章の中のある教師の投書のホームルームの状況と同じでね。
現実に付随しない、ただ良否を問うっていうか、筋だけを無理やりくっつけて、押しつけて、ごまかしてしまうというような、上げ足取りのデタラメな論調が、「これが一般論調だ」という顔でいろんなところに出ているんですよね。新聞でもそうですし、俺たちのいるスポーツのマスコミもそうだし、政治でもそうだし。
ちょっと話はズレるんですけど、今回、自民党が比例代表制で投票の方式を変えて、人気者をいっぱい入れて、票を取って、というようなことをやろうと……。
○福田和也 参議院の非拘束名簿式ですね。前田さんにも出馬の依頼が来るんじゃないですか(笑)。
●前田 そう、そういう話が来はじめていますのでね、ヘーッて……(笑)。俺、ここのところ忙しくてテレビも見ていませんし、新聞も読んでなかったので分からなかったんです。海外での大会もあったもので。
でも、そんなことが国会の議題としてすんなり上がって、通ってしまうような日本の政治ってどうなっているんだろうって不安になりますよね。そんな選挙制度になったら、政治的な見識があっても一般の人は、絶対議員にはなれないですよ。知名度がないという理由で。
手近ではそういうこともあるし、なんか、日本を全般的に見渡してみると、似たようなおかしな話がいっぱいあるんですよね。
愛情がないなっていうのは肌で感じることですけど、そういう人間の本質の部分について感じることを無視して、ただ理屈にへつらって、なんでもかんでもアンチテーゼを出す。それもその議論を良くするためにっていうんじゃなくて、例えば、政党のためであったり、ライター個人のためであったり、記者個人のためであったり、作家個人のためであったりとか……。
なんかね、そういうのが多いんですよね。集団的な――こういう言葉を使ったら、ちょっと古いかもしれないですけど――民族意識的な、社会意識的な、そういう良識っていうのが、どんどんなくなっているような気がして。ちょっとドキッとしますね、このごろね。
○福田 たしかに本当に恐ろしいですよね。いろいろと要因はあるんでしょうけど。例えば、国の借金の増え方なんかも、これはどうしようもないですよ。
●前田 いやぁ、あれも恐いですね。
○福田 昔は大蔵官僚というのは――確かに個々にはいろいろあったかも知れないけれども――とにかく財政均衡をすることが使命だと思って、同じようなことがあれば一生懸命抵抗したわけです。ところが、ノーパンしゃぶしゃぶだなんだとかっていうことで叩かれて、全然やる気がないわけですよ。
結局政治家は、お金を投下するということが票につながるから、大蔵官僚に言われるがままにどんどんやってしまっているわけですね。かつては官僚は使命感を持っていて、自分たちの良識で国を守るんだ、戦うんだっていう意識があって頑張っていたのですけど、それが今、全然ないですよね。それは本当に恐いです。
●前田 やってもどうせ、自分たちの意図を誰も汲み取れないからっていうのがありますよね。
例えば中国。『史記』なんか読んでみると、史官についての物語がある。斉かどこかの国の皇帝が、密かに大臣の奥さんに横恋慕して取り上げてしまった。そして後宮に据えた、と。
それが発端になっていろいろな問題が起こり、大臣がクーデターを起こして皇帝を殺してしまう。そうして、その大臣が皇帝になったあと、史官はその通りに歴史を書くんですね。何代何々皇帝は大臣だったけれど、あるとき皇帝に自分の奥さんを召し上げられて、それがもとになっていろいろトラブルがあって、皇帝を誅殺するに至ったと。
当時においては理由はどうあれ逆臣、逆賊で不名誉なことなわけです。だから新しい皇帝は、そういうことは書いちゃならんと言って史官を殺すんですが、それでも生き残った後に続く史官は書きつづけるんですよね。
後世に残されたその文章を読んで思うのは、どっちの立場から見ても、なるほどと汲み取れるものを書き記しているんですよ。実際にあったことに対して。それがマスコミの本来のやり方だと思うんですよね。
じゃあ日本はどうだっていったら、右に揺れ左に揺れやっているんですよね。後世から見て、本当に冷静に仕事をしている人はいるんだろうかって思うような、ね。
○福田 確かに官僚にしても悪いことをするのは恥ずかしいことですよ、あんな遊びをするのは。でも第一は、国家に対して忠誠を誓って、財政をきちんとするっていうことなわけです。マスコミはその本質を問わないで、とにかくプライベートでなにをしていたとかっていう、ちっちゃいことだけをガンガン言う。ところが肝心のところはなんにも言わないんですよね。
●前田 そうですね。森総理の話でも、若いときに買春容疑で捕まったらしいって、もう、そんなこと今さら出てきたって、どうするんだと思いますよね。それよりもあの人が、今どういう政策をしようとしているか、その政策は本当に日本のためになるのか、と、そういう議論をもっとどんどんすればいいのに。
あれは『噂の眞相』が発端でしたっけ? また、野党がそういう話に乗っかってしまうのもどうかと思うんですよ。政治のプロの集団が、政策の部分でやるんじゃなくてね、政策以外のことでやっている。
フランスなんかは反対に、ミッテランに愛人がいても、別にどうのこうのってないですよね。
○福田 あそこはまったく関係ないですね。
●前田 関係ないですよね。でも政治って、本来そういうものだと思いますね。今の日本は、いろんな議論が低次元ですよね、すごく低次元ですね。