【第6回 財政赤字を景気回復ではなくせない】
―― 不良債権というのは面白いことに、真面目にきちんとたて直せば優良債権にもなるものですよね、本当を言うと。全部とは言いませんが、きちんとした債権に生まれ変わる可能性もあるわけで、結局日本人の自覚次第なのでしょうね。
最後に将来展望の話をお聞きしたいと思いますが、木村さんは『通貨が堕落するとき』(講談社)という本をお書きになって、お話をうかがっていると、事態はそこで書かれた悪い予言通りになっている感じがします。将来の展望に関しては?
木村剛 いまおっしゃったことは非常に重要なことで、不良債権は確かに優良債権になり得るんです。なり得るけれど、債権放棄では優良債権にはならないんですよ。なぜなら、変えなければならないのは、経営者だからなんです。再建計画を多少いじったところで実態は何も変わらない。経営が悪くなるのは、経営者が悪いからなんです。経営者さえよければ、そもそも債権放棄を求めるような体たらくにはなっていないわけですから。
経営者をすぐれた人物に変えれば、新しい展開というものが今後あり得る。そういう環境変化があってこそ、初めて債権放棄を伴う再建計画というものに命が吹き込まれるのです。でもそんなことはこれまで一切やられてきていない。だから、この点を変えない限りは、おっしゃられたような不良債権が正常債権になるという可能性は低いんですよね。残念ながら、現実問題としては、債権放棄しても、良い経営者を得ない限り、再建は不可能だと言っていいと思います。
そういう意味では、不良債権という呪縛に陥っている資本とか、経営資源、人材といったものをいったん解放して、若くて伸び盛りの企業に配分できるような道筋をつけるべきなんじゃないかと思いますね。そのためにも、不良債権の元となっている問題企業は、処理しなければいけないんです。それをやらない限り、不良債権問題の解決をズルズルと先伸ばしをすることになってしまう。先に伸ばしてどんどん不良債権の塊が大きくなって、10年もたったのに全然片づかないということになる。
不良債権を正常債権にするという可能性を信じて祈っているだけではやっぱり駄目で、新しい経営者を外部から迎えるとか、社員が新しい企業に行きやすいような形をつくってあげるとか、そういうはっきりとした手術をしないと、この国の将来は非常に暗いと言わざるを得ませんね。
私自身ものすごい危機感に突き上げられて、「通貨が堕落するとき」という小説を書いたわけですが、その一つのきっかけは、この不良債権問題の広がりと深さなんです。現実問題として、不良債権はまだものすごくたくさんあるわけです。これはものすごいマグマなんですよ。
たまに噴火してそごうがポンと出てきたり、ハザマがポンと出てきたり、最近では千代田生命や協栄生命が爆発したわけですが、出たときには「大丈夫です、大丈夫です」と言って、公的資金を出したり、金融緩和をしたりして過剰流動性を増すことによって、問題が広範化することを一生懸命おさえているわけです。
構造的に言うと、片一方で不良債権という景気を悪くするマグマがあって、もう一方で過剰流動性という景気を過熱化させるマグマがある。この二つのマグマの均衡によって、なんとなく景気の温度を常温にさせているわけです。この均衡は、どんどん不良債権が大きくなって、一方の過剰流動性をどんどん大きくさせるという状況の中で、かろうじて成り立っているわけですね。
ところが、このまま均衡を保ち続けられるかというと非常に難しい。これまでは不良債権問題を銀行の問題として捉えて、「銀行は大丈夫だ」と言うために公的資金を70兆円用意したわけです。70兆円が用意されたので、確かに銀行は大丈夫ですよということになった。
とこそが、そのかわり、「銀行の信用問題」が「国の信用問題」へと変わってしまった。まさに日本国の信用問題にすりかわってしまったわけです。今年9月にムーディーズが日本の格付けをAa1からAa2に下げました。かつて日本はAaaだったのですが、98年11月にAa1になって、今度Aa2になった。
かつて日本はイタリアの放漫財政を批判していたのに、そのイタリアにもう少しで抜かれるというところまできた。財政が破綻しかかっていたカナダを追い越してすでに格下になっています。
日本の財政危機に関する議論になると、個人資産が1300兆円あるから日本は大丈夫なんだと言う論者がいますね。確かにいま国の借金は645兆円くらいです。まだ半分くらいだから大丈夫だというわけです。しかしこれは、非常にけしからん言い草なんです。もし私に一億円の借金があったとして、「でも丸山さんが金持ちだから大丈夫だ」と言ったとします。どう思われますか。私は「丸山さんから金をふんだくることができるから大丈夫だ」と言っているわけです。
日本には個人資産が1300兆円あるから大丈夫だと言っている人たちは、同じ事を言外に言っている。つまり、「消費税を40%に上げて税金として国民から奪い取るから大丈夫だ」と言っているわけですよ。
―― 645兆円の借金を補填するのに、1300兆円の庶民の貯金を使いますと言っているわけですね。「取る方法はいくらでもあります。消費税でも何でもやります」という意味ですからね。
木村 本当にそんなことができるのか。少なくとも政権がもつとは思われない。だから日本以外の国は、日本の財政赤字を心配しているわけです。ところが、日本は非常に不思議な国で、たった5年ほど前までは「アメリカは双子の赤字で何を考えているんだ」「イタリアもどうしようもない」と言っていたのに、自分たちが財政赤字になったときには「問題ない」と言っている(笑)。
信用力に関して、いま日本がどういう状態にあるかを見る指標の一つとして、日本政策投資銀行のドル建て債というのがあります。日本政策投資銀行は政府系の金融機関で、その発行する債券には日本政府の保証がついている。その金利をみてみましょう。これをアメリカの国債と比較してみるんです。
信用力が同じだったら同じ金利のはずですよね。2〜3年前は0.1%の差でした。たいした違いじゃない。それが1年前にはだいたい0.3%。去年の年末になると0.6%。今では1.0%を越えている。「日本は当てにならないから」というので、割増金利をみんなから求められるようになってしまったわけですね。確かに財政事情を見るとロシア並みなんですよ。それくらい日本はひどい状況になっている。
日本経済は非常にきわどい均衡の上に成り立っているんです。ありがたいことに国内のほとんどの人が今はデフレだと思っている。そして、為替をやっている人たちがアメリカの貿易赤字は問題だと思っていて、アメリカの景気はこれからダウントレンドだが日本はアップトレンドなので、円高になるという信仰がある。
このデフレ懸念と円高信仰があるので、国債の金利は上がっていかない。本当にありがたいですね。そうでなければ、こんなどうしようもない財政赤字を抱えている国の国債は暴落なんです。だから本来、円は売られて当然なんです。
だって日本国の借金は返せないレベルにまでなっているんですから。仮に、これから名目GNPが3.5%ずつ成長するとしましょう。これは今の日本経済の実態からすると高度成長と言える状況ですが、そういう仮定で試算してみても借金の残高は減らないんですよ。
3.5%成長しても返せないんだったら、とても返しようがない。景気がよかったら借金が返せるようになるというのは嘘です。いまだいたい一般会計は85兆円。ところが、バブルで一番景気のよかったときの税収がだいたい60兆円なんです。どう転んでも返せないですよね。
―― テレビとかでは絶対それを言わないですね。つまり景気をよくして、それで財政赤字を解決するというほうは一応言うけれども、今の借金はとても返せないというほうは言わない。でもいまの数字を聞けば、どう考えても無理なのは分かるのに、なんで全然言わないのかなと思うと不思議ですね。
木村 やはりそれは。
―― 言ってはいけない?
木村 国民に知らしめてはいけないと思っているわけです。知らせると責任問題になりますから。景気をよくする方法で借金は返せない。そうなると、返す方法は一つしかない。すなわちインフレしかないんです。