危機に直面したときこそ、本質が浮かび上がる。
この予想外の出来事が意味する核心は何か?
今週は5人の論客の緊急寄稿を掲載しています
ゴア副大統領が選挙の結果を拒絶し、得票の「再集計」(recount)を要求したことで、アメリカ政治は真っ二つに分裂した。「再集計」とは名ばかりで、実は選挙詐欺だからである。
ゴアの投げたサイコロは毒をまいてしまった。どちらが勝っても、党派的憎しみ、怨恨、猜疑心と泥仕合は続くだろう。負けた方は復讐のために大統領の足を引っ張る。議会選挙も大接戦で、安定多数はない。
これは外敵が消滅したこと、つまり平和の生んだ病気である。
戦後日本が保守・革新に割れたのと全く同じである。
党派争いは必ず外交に波及する。海外派兵と戦争は大きな賭けであり、野党が足を引っ張ると、大統領は躊躇逡巡する。だが武力の恫喝ができなくなると、パックス・アメリカーナはお終いである。
保安官が去勢されれば、日本は必ず危険に曝される。
民主党の「再集計」要求を、『ウオールストリート・ジャーナル』の社説は「ゴア・クーデター」と呼んでいる。民主党系の『ニューヨーク・タイムズ』も「法廷への運命の一歩」、或いは“treacherous
path”と呼んでいる。
何故か。
フロリダの投票用紙はパンチカードで、縦の折り目をはさんで、蝶々の羽のように2頁にひらくのでバタフライと呼ばれる。真中の縦軸に、下打ちをした小さい円が並んでいて、ボールペンの先で突くと、円形の紙くず(チャド)が落ちて穴があく。
そこに光を通して読み取るようになっている。最初の2回の集計は、州政府の規定によって機械読みだった。そのためのパンチカードなのである。
しかし2回ともブッシュが1700票の差で勝った。これだけの僅差だから、票を手読み(hand count)すれば、ゴア票が掘り起こせるだろうと民主党は踏んだのである。
票の中には投票者が間違って2人の候補者の穴をあけたものがある。チャドが抜け落ちないで、穴を塞いでいるのがある。これを「ぶら下がりのチャド」と呼ぶ。「曲がったチャド」もある。「懐妊のチャド」は出産していないので意味不明ということだ。
高齢の退職者が多い選挙区だから、しっかり穴を開けてない票が多いのだといわれる。選挙管理委員会は、このような票を、手にとって、光にかざし、投票者が何を意図したのかを決定する。第三者が当人の意図を事後的に判断するのである。
無効票は千差万別だから、行き当たりばったりにルールを作っていく。当然のことながら、何回もいじくっている間にチャドが切れて落ちてしまう。
共和党は機械読みだけが公平・中立だからと主張し、手読みに反対したが、州の裁判所では負けるので連邦裁判所に訴えた。州や郡の判事職は、政権をとった政党が党員に与える報酬であり、終身雇用である。
フロリダはブッシュの弟であるジェブが就任するまで、長年民主党の牙城だったから、判事には民主党員が多い。州最高裁の判事7人は全部が民主党員である。
更に、ゴアはフロリダ67郡のなかで、民主党がいつも勝利する3つの郡を選んで「再集計」に挑んだ。あれよあれよという間にゴア票が増えて、差が300まで減ったのである。だからゴアは止めない。勝つまで「再集計」を要求するかもしれない。
私は、これは詐欺だと思うが、民主党は民主党で、直接投票で勝ったのに、大統領選挙団という制度のおかげで、負けたのが口惜しい。共和党は貴族的でおっとりしているが、民主党は勝つためなら何でもありという体質である。日本を真珠湾攻撃にはめこんだのは、民主党のルーズベルトである。
10年前に冷戦が終焉して以来、内政の党派争いが徐々に外交に拡張してきた。
クリントンの不倫を弾劾裁判にかけようという共和党の動きは、20年前にニクソン大統領が弾劾された時、若いヒラリーが告発状を書いたことへの復讐である。そうしたらクリントンはイラク制裁の戦争を始めて、弾劾をそらすことを試みている。コソボ介入には共和党が反対したので、空から爆弾を落とすだけで、「死傷者は一人もいない」とクリントンは自慢している。
外敵が消えてなくなった今、アメリカを動かす原動力は、共和党と民主党の争いだけである。
ここから二つの、相反した結論を引き出すことができる。第一に、アメリカは戦争を恐れるようになるだろう。アメリカが強いのは、政治が強いからで、軍隊が強いからではない。しかし世論が割れて、海外派兵が政争の道具になれば、スーパーパワーは普通の国になる。
第二に、それでもアメリカは超大国の地位と権力に未練があるから、もう一度「真珠湾攻撃」を誘って、国家を団結させることを求めるだろう。これはサミュエル・ハンチントンがフォーリンアフェアズ誌で提唱していることである。(Samuel
Huntington,“The Erosion of American National Interests.” ForeignAffairs,
September/October 1997.)