【第4回 真のインキュベータが必要】
堀紘一 さらに、なかなか日本でベンチャーが成功しなかった理由の一つは、ベンチャーに投資するエンジェル、ベンチャー・キャピタル、インキュベータというものが、日本ではあるべき姿で育ってこなかった。
銀行は基本的に「お金を貸します」と言うけれど、「ただし担保をください」と言う。しかし、ベンチャーが担保をもっているわけがない。ということは、銀行はお金を貸さないと言っているのと同じですよ。そこにベンチャー・キャピタルやインキュベータがいなければ、お金が制約要因となって、ベンチャーは育たなかった。
それがここのところ急激に変わってきた。日本でもベンチャー・キャピタル活動を始める会社が急激に増えました。でも、悲しいかな、もともとベンチャー・キャピタルが業として栄えていなかったから、人材が圧倒的に不足している。
それならせめて経営学を教える先生や、経営学を修めた人たちが出てくればいいのですが、先ほど申し上げたようにビジネス・スクールがほとんどなかったから、先生もいなければ卒業生もいない。だからベンチャー・キャピタリストのタマゴが不足している。タマゴがなければ、ヒヨコも生まれないということになっているわけです。どちらかというとお金先行のばらまき型でやってきたために、いろいろ問題も出ている。
そこへ、アメリカで成功したベンチャー・キャピタルが、日本はベンチャーが育っていないからチャンスがあるんじゃないかと来るわけです。みんなすごいことを言って、「うちは1年間で1000億円投資する」とか、全部足すとアメリカから来たベンチャー・キャピタルだけで、1年間の投資額が1兆円超すじゃないか。そんなにたくさん、この国にはベンチャーがないという笑い話があります。
彼らの問題点は何かというと、日本語です。最大の非関税障壁でしょう。アメリカのプロのほとんどは日本語が話せない。結局、上陸してにわかに日本人を雇うが、そういう経験のある人はあまりいないから、お金がたくさん後ろに眠っているわりには、あまり実のある投資ができていない。今、日本のベンチャーの世界は非常におもしろい世界で、金はうなっているが、いいベンチャーが足りないという状況になっている。普通、話が逆なんだけどね(笑)。
―― そうですね。本当はこれは非常に恵まれた状況ですね。
堀 ある意味では大変恵まれた状況にあるけど、何が恵まれていないかというと、ベンチャーを本当の意味で戦略的に支援していくようなベンチャー・キャピタルや、言葉の本当の意味でのインキュベータがないということですよ。
このインキュベータも、今は100以上もあると思いますが、現状を見てみると、ほとんどは大きな事務所を借りて間仕切りで部屋にして、机、電話、パソコンなどを置いて「どうぞお使いください。そのかわり、うまくいったら株券置いていってくださいね」とか、あるいは「うちのシステムを使ってもいいですよ。その代わり成功したら株券を」とか。それではインキュベータというより場所貸しや物貸し。
―― もはや賃貸業ですね(笑)。
堀 そう。だからあえて言えばデパート(笑)。「売るのは問屋や小売さんがやってください、私は場所だけ貸します」みたいなね。それをインキュベータだと言っているのが多いわけです。
もちろん、そういうサービスも必要だし、そういう業種を私は否定しませんが、それだけではベンチャーは育たないということを言いたいのです。本当にベンチャーを育てるには、お金も大事だけど、お金以前の問題があって、やはりまずはビジネスモデルをきちんと作ってあげること。それが成功してうまくいった時には、必ず競争相手が来る。だから、規模やスケールにものを言わせる人が来ても負けないだけの、差別化されたものを作ること。
差別化とは何かというと、人に真似されない、真似しにくい、真似したら損だという「真似三原則」と私は言っていますが、この三つのどれかを満たせばいい。あとから来る人が真似できないほど手がこんでいるとか、見事だとか、精巧にできているとか、いろいろな経験が入り交じっているとか、あるいは真似をしたら損だという仕組みが大切なのです。
一番古典的な例で言えば、たとえばポーラという化粧品会社は資生堂と同じように売ろうと思っても、資生堂の方が強いブランドだから売れない。そこで、訪問販売で売ってやろうと考える。これを資生堂が真似したら損になる。全国に何万とある花椿会というチェーンが、そんなことをやればもう資生堂を扱わないとなるから、悔しくても指をくわえて見ているしかない。これが真似をしたら損だという話なのです。
だから私が言う真似の三原則は、企業は成功する前から「成功したらどうなるか」ということを考えなければならないということでもあるのです。とりあえず成功すればいいと考えるのは、スケールの小さすぎる発想です。本当のベンチャーと言うからには、成功が前提になってくる。ある程度成功してさらにスケールアップしていく時、他の追随を許さないためにはどうしたらいいかというのが、真のビジネスモデルであり、真の戦略になってくるわけです。
ここを最初からよく考えておかなければならないのですが、なかなかそうなっていない。ベンチャーも考えていないが、それを支援する立場にあるベンチャー・キャピタリスト、インキュベータがそのような機能を備えていない。
中には冗談のようですが、1株5万円で始めた会社に、ベンチャー・キャピタルが1株1000万、200倍でお金をどんどん何億円も入れたあとで、今ごろビジネスモデルを変えているという会社がある。ビジネスモデルを変えているということは、簡単に言えば200倍で入れてもらったお金のアイデアはダメだったということ。そういうことはアメリカでは聞いたことがないですね。平気で投資する方もする方だが、あとでビジネスモデルを変える方も変える方。こうなるともう何をかいわんやになってくる。
そんなことも現実にあるのですから、大問題だと思いますね。