【第2回 1人より、2人の主要人物】
堀紘一 これまで申しあげましたように、もともとどこへ行っても通用しそうな人が、なかなかベンチャーに回ってこない。個性を引き出す教育を受けていない。それから経営学に接する機会もないような状況、という問題があるわけです。そこからドンキホーテのように立ち上がって、「さあ、ベンチャーだ」とがむしゃらにやって成功することもあるかもしれないが、もちろんそれは限りなく難しい話ですね。
現に、ビットバレー系のベンチャーを見ていて言えることは、いわゆるBtoC(消費者を対象としたEビジネス)できちんとしたビジネスモデルができているところは少ない。またオンラインを使って証券取引をする会社は、いま日本に60社近くありますね。あきらかに多すぎます。私はこうしたビジネスモデルに懐疑的です。このくらいの仕組みは誰でも考えつくし、だからちょっと流行りそうだったら「自分もやろう」と真似をして入ってくる人がいる。それに対して差別化ができないから、結局は価格競争、ダンピングになる。誰も儲からないということになります。
話はそれるかもしれないが、そもそも特許というものは、ちょっと詳しい人なら知っているように、取ってもあまり意味がない。特許を取るためには、「何々のここがこう違うから特許をください」と申請します。しかしかえってそこをよく研究すれば、ある程度の力がある人だったら、その特許権を侵さずに同じことをやるのは、そんなにむずかしいことではない。これは技術の世界では非常に常識化していますので、本当にいいものはわざと特許を取らないという人もいます。つまり、どうやってやるかという技術を公開しないわけです。その方がかえって真似しにくい。
それはともかく、ビジネス特許を取るにしろ取らないにしろ、BtoCはアイデア勝負。アイデア勝負は結構だが、うまくいったら真似をする人が山ほどいるからすぐ価格競争になる。うまくいかなかったら真似する人はいないけれど、真似する人もいないようなことでは儲からない。これがBtoCが簡単そうに見えて、うまく立ち上がらない一つの原因です。ビジネスではアイデアというものは、努力とか評判など他の要因に比べて比重が少ないことからきている。
ではそこで何が大切なのか。ヒントを挙げると、アメリカで成功してきたインターネット関連のベンチャーをよく見ると、だいたい2人の主要人物がいます。たとえば、いまドリームインキュベータが提携している「セピエント」という会社は非常におもしろくて、もともと今から7年ぐらい前にITから入っています。アメリカでもその頃はまだ、ITができるというだけで仕事になるような時代だったわけです。
その次にインターネットがどんどん流行ってきて、ITかWebのデザインに入る。そうなってくると、全体のコンセプトを設計したり、戦略を考える人も必要になる。そして今では「インターネットで何かやるために必要なことは、全部私に任せなさい。戦略を練ってあげるし、コンセプトを固めてあげる。また、それをWebの上に落としてあげる。データベースとのやりとりもやってあげます」という強靭な会社になったわけです。
この会社は7年ぐらいで、あっという間に時価総額が3000億円、社員が3000人ぐらいの会社に成長しました。一時は8000億円ぐらいありました。
ではその鍵は何かというと、三つぐらい重要なことがあると思います。一つは、この会社はジェリーとスチュワートという2人の大学院生が、文字通りガレージで始めました。スチュワートはMIT(マサチューセッツ工科大学)の学生でエンジニア。ジェリーはハーバード・ビジネス・スクールに行った文化系の学生。技術を勉強した人間と経営を勉強した2人が、最初から二人三脚で始めた。
普通、ベンチャーは「1人だけできる人がいて、あとは従業員」のような感じのところが多いが、1人じゃなく2人だと、単に経営上必要な領域をカバーするというだけでなく、異なったバックグラウンドをもって、異なった視野をもった同士がコミュニケートをすることになる。ディベートも、ディスカッションも、口喧嘩もする、ということが大事です。そこからブレークスルーが生まれてくる。
1人で考えていると、どんな優秀な頭でもクルクル空回りする。雪山で遭難したようなもので、本人は一生懸命努力しているつもりなのに、1週間も考えて一歩も前へ進んでいなかったというようなことが起きるわけです。2人以上の異なった視野をもった人間でやると、その危険性が大幅に薄らぐ。
それが2人以上のメリットですが、「セピエント」も最初から2人でやっていたというのが成功の要因の第一だと言えるでしょう。いま私に身近な例を挙げましたが、2人でやって成功した例はソニーやホンダ、最近ではヤフーなどいくつも挙げることができます。
それから二つ目に、どんどん合併を繰り返していくM&Aです。たとえば、最初はITだったけれど、次にWebのデザインを始めれば、クリエーターが必要になる。優秀なクリエーターがどこかにいないかと探したら、30人ぐらいの会社にいた。そこと株式交換をして、Webデザインをのみこんでいく。次に戦略が必要になったら、戦略を手がけている人たちとまた合併を繰り返していく。
ということで独り占めにしようとか、全部自分でやろうという自前主義でもないわけです。あとで詳しく説明する「分かち合う」という考え方を実行しているとも言えるでしょう。そのようにして「合併」という手段を繰り返していった。それが二つ目の成功要因です。
3番目に、優秀な人間を引きつけようと、ストックオプションなどは、よその会社以上に大胆に若い社員たちに配っているから、人や戦略から見ても、成功する要因があったわけです。
一つの会社の例を挙げましたが、この例からいくつかの明快な示唆を得られると思います。戦略ももちろん成功する要因ですが、私がまず言いたいことは「人」というところです。特に日本の場合は「優秀な若者よ、来たれ」と強く問いかけたい。それと同時に、やはり経営学をきちんと勉強しなくてはならないということは言いたいですね。