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第1回
まず、人ありき

第2回
1人より、2人の主要人物

第3回
独り占めでなく、分かち合え

第4回
真のインキュベータが必要

第5回
人、ビジネスモデル、差別化

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(1/全5回) 2001.01.22

ボストン・コンサルティング・グループの社長を辞し、
昨年6月に新会社ドリームインキュベータをスタートした堀紘一氏。
実際に現場で見た、日本のベンチャーの弱点と可能性とは?
(聞き手:丸山孝)

【第1回 まず、人ありき】
―― 堀さんが新しく興された会社「ドリームインキュベータ」でやろうとしていることは、社名がすべてを表している感じですが、今日は「日本でベンチャー企業が成功する条件」というテーマでお話を伺いたいと思います。

堀紘一 ベンチャー企業が成功するためには何が必要かというと、「どこでやっても必要なこと」というユニバーサルな部分が一つ。もう一つは「歴史や風土から考えて、日本の場合はこうなのだ」という二つの部分があります。ユニバーサルな部分を簡単に言ってしまえば、四文字で「人と戦略」になります。まず、その「人」から始めましょう。

 ベンチャーをやるアントレプレナーは、失敗するとお金も時間も失い、さらには「失敗者だ」という烙印も押されてしまうので、非常に大きなリスクを負っているわけです。英語では「リスク・テイカー」という言葉を使いますが、ある程度リスクを取れる人であることが大事です。

 ただ面白いことに、人間をよく観察してみると、一般的にIQが高い人、頭のいい人はリスクを嫌って避ける傾向がある。どちらかと言うと、あまりIQが「高くない」というと語弊があるかもしれませんが、そのような人のほうがリスクに気がつかないままにリスクを取ってしまうところがあるので、そこにやや矛盾というか、人間の面白い点がありますね。

 日本の場合は、まず渋谷に「ビットバレー」と称して、いろいろなインターネット系ベンチャーがたくさん出てきましたが、正直言って成功しそうな会社は少ない。残念だけれど、これから屍の山が築かれることは間違いない。どうしてそうなるのかを考えてみると、逆に、どうすれば成功するのかがわかってくると思います。

 まず言えることは、「この人は成功するだろうな」という予感を感じさせてくれる人が、悲しいことに少ない。ここがアメリカのシリコンバレーと、名前が似てるのに一番違うところでしょう。というのは日本の場合、たとえばいい大学を出て人間的にも魅力ある人は、大企業の就職試験に軽くパスします。単に本人が安定志向だというだけではなく、親や兄弟も松下やトヨタ、ソニーといった有名大企業に就職が決まったらもう「おめでたい。ぜひそこへ勤めて真面目にコツコツやりなさい」という風土ですね。ですから一般的に考えて、誰が見てもいいと思うような人は、そういう大企業へ行ってしまうケースが多い。

 逆に言えば「大企業に行けなくて、自分の第一志望じゃないところに入ったけれど、いまいち納得できないから一旗揚げるか」というような人と、世の中のことを何も知らないで「今はベンチャーブームだから、今やったらうまくいくかもしれない。うまくいって大金持ちになった人もいるから始めよう」と大学生のうちから始めるような人。そういう人が非常に多いのです。そういう人たちでもIPO(新規株式公開)くらいまではたどりつけるかもしれないが、その後、息切れしてしまう。

 いま日本でベンチャーが思ったほど伸びていない理由を「人」の面から言えば、もっと優秀な人、もっとできる人たちがベンチャーに飛び込んでこなければ駄目だというのが一番最初の問題です。まず、ここをなんとかしたい。

 それから「人」に関しての2番目の問題は、「教育」だと思います。日本の学校は団体で何かをやる、目立たないようにする、言うことをきちんと聞く、言われた通りにする。この4原則を守る人が大変愛でられるし、そういうしつけ方をされるわけです。

 ところが、ベンチャーは常識通りにやれば成功するのかというと、そんなことは絶対にない。なぜなら、常識的なことは大きな企業がやればもっと成功するわけです。基本的にどんなビジネスにおいてもスケールメリットが働き、大企業と小企業が同じことをやったら、大企業の方がコストが安い。ページ数が同じで、30万部の雑誌と100万部の雑誌があったとすれば、それは100万部の雑誌のほうが製作コストが安いに決まっている。

 同じことをやれば大きな組織が勝つ。したがって、ベンチャーが成功するためには、人と違うことをしなければならない。これは当然の帰結です。ところが、日本では学校で人と同じことをするように基本的にしつけられていますから、人と違うことをやったり、個性を発揮したりというのはどうも苦手です。勇気も持ちにくい。

 そういう意味では、これまでの学校教育はベンチャー向きの教育ではなく、大企業で働くために都合のいい教育をやってきた、というのが2番目の問題です。

 3番目は、教育のなかでもとりわけ大学が他国に比べて見劣りすることです。日本の学会で発表されて世界的に話題となったり、注目を集めたりするような論文、研究があまりない。わけてもビジネス、経営学に関しては、これは本当に謎のようなところがありますが、なぜかほとんどの大学が真剣に取り組んですらこなかった。

 わずかに慶応大学、一橋大学、神戸大学などいくつかあるにはあるのですが、基本的にビジネス・スクールというものがほとんど存在しないか、あっても小さい。アメリカに比べると桁が二つぐらい違うのではないかというぐらい発達しておらず、普及していない。

 結果として、ベンチャーの創業者になるような人たちへのビジネス教育がなされていない。大学を出る時点で、会計学の基本すらわかっていないような大学生がほとんどですね。

 一方でベンチャーを始めるとなると、これは企業ですから、当然のことながら会計学くらいわからなければならない。少なくともバランスシートとPL(損益計算書)を見たら、その奥にあるものは何なのかある程度想像がつかなければならない。

 「アカウンティング・イズ・ザ・ランゲージ・オブ・ビジネス」、つまり「会計学とはビジネスの言語である」という言葉もあるくらいです。アメリカでは経営学部の学生でなくても、将来独立して何かをやろうと思う人は、たとえ専攻がピアノや絵画、歴史であっても、しっかりアカウンティングぐらいは任意科目でとっている。

 それから「サマー・スクール」。海外の留学生や社会人で勉強したい人、あるいは3年で大学を出たいという人は夏休みでも授業をとりますね。そういう夏季学期の授業でも会計学は人気科目の一つで、みんな一生懸命勉強しています。私も昔、サマー・スクールで会計学を学んだクチです。しかし、日本にはこのような土壌がないわけです。

(第1回 終)

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