若い人、とくに学生諸君などと話していて、よく子供のことを聞かれます。
それも、わりと率直に。
「子供を産んで、何かいいことがあるんですか」と。
まあ、こういう質問を受ければ、親がかりのクセに、あるいはついこの間まで親御さんの世話になっていたクセに、何を偉そうに、そういう事が聞ける立場か。だいたい子供を持つということにたいして、「損得」で語るとは何事か、と一喝しなければならないのですが……。
でも、まあ話をしてやるのです。というより、話したいな、と思う。
もちろん、彼らがそういう問いを発するのは分かるのですよ。
世間がここまで荒れてくると、子供をもつことが怖い、子供を持ってもいいことなんか、何もないのではないか……と、一応感じてしまうのは、分からないでもない。
正直にいえば、私だって、怖いのですよ。これから育っていくにつれて、何があるか分からない、子供たちがどういう状況に遭遇するのか、どう育つのか、その一つ一つにたいして、自分がどう対応できるか、不安でしょうがない、というのが本当のところです。物書き仲間で、育児論を書いたりしている人がいますが、いい度胸をしているなぁ、というのが本当のところですね。
でもですねえ、今のところ私は、正直に云うと「得をした」と思っているのです。
「得」といういい方は、よくないかもしれませんが、でも「得」と思ってしまうのはですね、子供を育てていく、まあ私の場合は、育ててなんていうと家族に怒られそうですが、ようするに育っていく子供とつきあっているとですね、何というのかしらね、人生を二度生きている気分になるのですよ。
二度生きる、という言葉は、分かりにくいかもしれません。
要するに、子供が育っていくのを見ていると、分かることがたくさんあるのですね。思いだすこともたくさんある。かつての体験が忽然と想起されるとともに、子供心に漠然と眺めていたさまざまな事柄の背後にあった、事情とか文脈が、よく理解できるのですね。
そうか、あの時、父親はこういう事に困っていたのだとか、これがあの騒ぎの原因だったのか、と云うことが分かる。
さらに、ジェンダーが同じ子供の場合にはね、自分が生きてきた過程を、そのまま生き直すようなところがあって、それは、それは、面白いものです。
この楽しさは、いろいろな側面がありますけれど、やはり遊びとか、玩具が大きいですね。
で、遊んでいると、世の中というか、生活文化のようなものが、意外に安定しているというか、持続性のあることが分かるのです。
下の子が男の子で、三年生なのですが、見ているとそんなに変わらない。たしかに、ゲームボーイで「遊戯王」はやりますし、レゴで遊ぶのは同じでも、このごろのレゴは、スターウォーズがあったり、プログラムを組めたりするけれど、でもまあ自分がやっていたのとはそうは変わらない。
で、ミニカーが好きだったり、田宮のプラモデルを作るのも同じですね。私の時代がマッチボックスで、息子はトミカであるとか、私は戦車から入ったのですが、息子は自動車を作っている、といったぐらいの差がありますが。
あと、絵はよく描いていますね。一心不乱に描いている。
何を描くかというと、電気機関車とか、新型の電車とかを、鉄道の雑誌のグラビアから、懸命に写しているのです。
小学校に入る前から、鉄道が好きだったのですが、入ったクラスに同好の士がいたらしくて、一気に昂じてしまった。
頭が痛いところもありますが、まあ、自分も通ってきた道ですからね……。
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撮影 : 福田和也(以下同)
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私の場合、メルクリンのHO ※1 から入って、Nゲージ ※2 に行ったのですね。メルクリンは、システムとしては、とてもよくできていて、走らせたり、レールの回路の仕掛けを組み合わせていくのには最適なのですが、やはり価格が高いですし、それからどうしてもレイアウトが作りたくなった。となると、価格の面でも、スペースでもNゲージということになる。
レイアウト、つまりはジオラマとしてセットされた空間にレールを敷いて固定的なスペースを作るのですが、やはりこれは、一種の世界をつくり上げるという欲望なんでしょうね。小学校高学年から本当に熱中して、学校の授業中はいつもノートにレイアウトのプランを描いていました。
で、息子も、レイアウトが、作りたいんですね。しょっちゅう、そのプランをぐるぐる描いている。
鉄道模型というのは、本当に奧の深い趣味ですからね。MITに、世界最高というレベルの鉄道レイアウトがあるのですが、そこで、鉄道の運転ダイヤを組んでいた連中が、コンピューターによる模型の制御を通じて、コンピューター・プログラムの歴史を大きく塗り替えるような開発をしたのは有名ですし、故井深大氏は、きわめて熱心な鉄道模型マニアでした。
まあ、私は、中学に入ると文学の方に行ってしまって、そんなに模型をいじらなくなったのですが。それでも、高一くらいまでは、雑誌は読んでいました。『鉄道模型趣味』とかね。今なら、カリスマというのでしょうけど、とんでもないシーナリー製作者やモデラーがいて。
特に、天賞堂の鉄道模型を世界的なブランドにしている、まさに真鍮でできた芸術というべき、無塗装の特製機関車の壮観さ。子供の時に、行くたびに、大人になったら、天賞堂の真鍮のHOを買ってやろうと思っていました。