【第5回 一生懸命聞いています】
―― 古い考え方のお父様に教育されたとおっしゃいましたけれども、それが非常にいい形で結実したのかもしれないと、興味深く聞いていました。まあ、子どもの頃はたいへんだったようですが(笑)。ご著書にもそのエピソードがたくさん……。
阿川 あと、そうとう頑なで男尊女卑の父ですけれども、ユーモアということについては、教育の中でずいぶん叩き込まれたところがあって。だから、これは父も書いてますけれども、私は兄ほど活字を読むのが好きじゃなくて常識を知らなくて、どうしようもない娘だと思っていた頃に、「もういまさら夏目漱石を全巻読めとか、森鴎外を全部読めとか言ったって、どうせおまえは読みやしないから、せめて古典落語を聞け」ってよく言われたんですね。
―― へえ、面白い教育ですね。
阿川 それで、暇さえあれば家に落語のテープが流れてたり、車に乗ると家族で渋滞の中ずっと落語を聞いていたりして、それを家族でパロディとして使ったりするということは通用してたんです。父に言い返すときでも、落語の名セリフでならOKだった。
つまり絶対的な上下関係の中でも、そこにユーモアがあったら、違反しても認めてやろうというようなフレキシビリティがあったんですね。そういう考え方は多分、受け継いでるものがあるのかなとは思います。
―― 最後に具体的なことを。昨日から、もう阿川さんにインタビューするのかと思うと気が重くて(笑)。『週刊文春』の「この人に会いたい」であれだけ上手にインタビューする人に一体どうやって聞けばいいんだろうかと思って。
阿川 上手じゃないです、別に。
―― コツを教えていただけませんか?
阿川 いや、ないです。
―― (笑)そこをなんとか。
阿川 準備が悪いですし、どの分野に対しても私は無知なので、にわか勉強でお目に掛かるっていうことのほうが圧倒的に多いんです。けれどもこの期に及んでは得意分野がないから、だから、もうなるだけ謙虚にゲストのお話を伺おうと思っているんです。
というのは『週刊文春』のインタビューの仕事を引き受けるにあたって、私はインタビューが下手だ下手だと言われつづけていたので、どうしようかと迷って。鋭い質問っていうか、相手を困らせるような質問なんか到底できないと思っていたので、どうしようかなと。その随分前にPHPの『Voice』という雑誌でインタビューを連載してたことが一時期ありまして。
―― そうでしたね。
阿川 この話はもう何度かしているんですけど、そこで城山三郎さんにお会いしたんですよ。もう15年ぐらい前かもしれませんけれども。その時、初対面だったんですが、「城山家では父親と息子の関係はどういうふうになってらっしゃいますか」なんて伺ったら、というのは『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』という本の翻訳を城山さんがなさって、たいへんなベストセラーになっていた時期でしたから。
城山さんがニコニコ本当に穏やかに笑ってらして、「うちは別に親子関係は淡白だからねぇ、どうということもないですね。お宅は?」っておっしゃるんですよ。
だから、私が「もううちは父がああですから。こんなひどい目にあいました」という話をすると、「本当にお宅は変わってるね」なんてケラケラと笑われて。「それで?」っておっしゃるんですよ。だから、つい「最近こういうひどい目にもあいました」なんていう話をして。それもケラケラと笑われて、「ああ、そう。本当におかしいねぇ」って面白がってくださった。
すごく面白がってくださるものだから、ついつい私ばっかりしゃべりまくって、当時の編集長に「阿川さん、今日、阿川さん1人でしゃべってましたね」って怒られたんですけど。
それは、インタビューとしては失敗だったんです。でも数年経って、城山さんが本当に面白そうに話を聞いてくださったっていうことを思い出したら、大した質問をしなくても、しゃべりたくなる気持ちにさせるという状況はあるなって思ったんです。
もちろん城山さんの足元にも及びませんけれども、知識のない私がいろいろな分野の方々にインタビューをしていくとなったら、これは面白がってお話を聞く以外に方法はないと思いまして、それだけはなるべく心掛けているんです。
せっかく話しているときに聞き手が時間を気にしてたり、すぐ全然違う質問に飛ばれたりすると、自分の話は大して面白くなかったのかなって、しゃべっている側は思いますでしょ。「じゃあ、これぐらいにしておこうかな」とか、頭の中で抑制してしまう。
けれども、面白がって話を聞いている人が目の前にいると「もう一つこういうエピソードがあったんだよ」ってつい、思いも掛けないことが頭の中から出てくるっていうことがあると思うんですね。
だから、一生懸命聞いて面白がるようにしようというのは、コツというわけではないですけれども、それは大事なことじゃないかなとは思ってます。
―― 阿川さんの連載を読んで、こっそり虎の巻で勉強してきたんですけど、実際に自分でやってみると、なかなか簡単には上手くいきません。今日はどうもありがとうございました。